エッセイ

水曜随想 「月桃」に込められた思い

 

 沖縄戦の組織的戦闘は6月23日に終わったことになっている。この日は沖縄戦「慰霊の日」だ。しかし米軍の掃討戦は9月まで続いた。伊江島では敗戦を知らずに2年間ガジュマルの上で隠れていた2人の日本兵もいた。

 6月になると、県内の学校では「月桃」の歌が聞こえてくる。平和の心を持ち続けてほしいという思いが込められた歌だ。作詞・作曲は海勢頭(うみせど)豊さん。「小学校1年になった孫が月桃を口ずさんでいる」と海勢頭さんに報告したところ、大変喜んでくれた。

 「実は本土復帰10年のとき、あるテレビ局から、復帰しても基地は残り、米軍の事件・事故は繰り返されている。怒りを込めた歌を作ってほしいと頼まれたことがある」と話し出した。激戦地の糸満市を取材してまわったらしい。住民は沖縄戦の話ばかりで、たたかいの歌の取材にはならなかったとのこと。

 「各集落をまわったけど、一家全滅の屋敷跡が目立った。どの屋敷にも月桃の鮮やかな白い花が咲いている。まるであるじが帰ってくるのを待ちわびているようだった」「作るべきは沖縄戦の体験者の奥深くにある妥協の余地のない平和を願う心」

 糸満市喜屋武の屋敷跡に咲いている月桃の花が目にとびこんできたとき、一瞬にして「月桃ゆれて 花咲けば 夏のたよりは南風 緑は萌(も)えるうりずんの ふるさとの夏」という歌詞とメロディーが浮かんできたそうだ。糸満市で戦争を体験した人たちの取材を重ね出来上がったのが「月桃」の歌だ。

 歌詞には戦争を直接表現する言葉はない。平和を語り継ぐ勇気を子どもたちが持ってほしいという思いを込めた。沖縄戦を描いた映画「GAMA―月桃の花」のテーマ曲にもなった。

 話を聞いて平和学習の一環として、子どもたちに歌い継がれている意味が改めて理解できた。海勢頭さんは「今は戦争への危機感がいっぱいだ。そんな時代になったらこの歌も歌われなくなる」と語った。憲法9条を守る決意を固めた懇談だった。(しんぶん赤旗 2023年8月30日)

 

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