エッセイ

随想 「汝の価値にめざめよ」

 

 2015年4月23日、衆議院安全保障委員会で、「防衛装備庁」の設置を盛り込んだ法案の参考人質疑が行われた。アメリカ経済史が専門で獨協大学名誉教授の西川純子氏が意見陳述をした。その内容は今でも強く印象に残っている。

 西川さんは、「防衛装備庁」という名称は「武器調達庁」と呼ぶのがふさわしいと切り出した。防衛装備とは、武器のことだから当然だ。政府は法案の本質をごまかすために正反対の名前で巧みに言い換える。安保関係の用語は、まず名称から疑ってかからねば本質を見失う。

 西川氏は防衛装備庁の先に見えるのは「軍産複合体」と指摘した。軍産複合体とは軍事的組織と兵器産業の結合関係を示す言葉だと言う。「軍産複合体が社会に根をおろす。それは戦争と永遠に縁が切れない社会を意味する」として、「アメリカに見習って同じ道を歩もうというのは愚かしい」と厳しく指摘した。

 あれから8年たった。連休前の4月、同じ安保委員会で、「軍需産業支援法案」がたった8時間の質疑で採決され、反対は日本共産党のみだった。参考人で呼ばれた専門家は元高級軍人、防衛省の元官僚、日米同盟を信奉する研究者たちだけで、批判的角度から論じる参考人は1人もいなかった。

 軍需産業を活性化させるための税金投入、海外への武器輸出への政府挙げての支援策など、安保3文書を具体化する危険な法案を大手メディアも全く報道しない。政府の有識者会議に名を連ね、3文書の作成に携わるメディア幹部もいた。

 台湾有事は米軍の司令官が突然あおり始め、安倍元首相が「台湾有事は日本有事」と危機感を増大させた。その結果、米国製兵器の爆買いが進み、国内兵器産業への支援も始まった。殺傷能力のある兵器の輸出も強行する勢いだ。

 日米同盟のもと、日本も戦争と縁の切れない社会へと進みつつある。平和国家への転換に向かって、私たちが頑張らなければ。「汝(なんじ)の価値にめざめよ」と自らを励ましつつ、奮闘する毎日である。(しんぶん赤旗 2023年5月12日)

 

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