エッセイ

水曜随想  尖閣に必要なのは9条

 

 尖閣諸島周辺で漁船衝突事件が起きた。事件直後にお会いした八重山漁協の上原亀一組合長は「警告に従わない中国漁船の行為は許せない」と語った。

 中国が領有権を声高に主張する態度は異様だった。一方で「東シナ海には領土問題は存在しない」という言葉だけを紋切り型に発信する前原国交相(当時。現外相)の態度にも危うさを感じた。

 「無主の地」だった尖閣諸島を「先占」という国際法の手続きをへて、日本領土としたこと、中国漁民が遭難した時は、尖閣列島に居住していた日本人がこれを助け、当時の中国政府は感謝状まで出していることなど、領有の国際法的、歴史的正当性を日本政府はきちんと主張してこなかった。

 中国政府からも日本政府からも冷静さを欠いた自己主張しか伝わってこない。

 前原大臣は、外相就任直後に、クリントン米国務長官との会談を行った。前原氏によると、国務長官は「尖閣諸島が米側の日本防衛の義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象となる」との見解を表明したそうだ。日本のメディアも大きく報道した。

 ところが、同会談の内容を米国側は、「漁船衝突事件で日中両国が対話を強化し早期に解決するよう求めた」「尖閣諸島の領有権が日中両国のどちらにあるかについては、米国は立場を明確にしない」としか発表していない。

 前原外相は、安保条約5条を根拠に、尖閣列島が日本の領土であることを証明しようとしたのか、それとも、領海侵犯をしたら、「米軍がでてくるぞ」と威嚇
を試みたのか、それとも、在沖米軍基地の重要性を強調したかったのか、その真意は分からないが、いずれにしてもおそまつな外交である。

 こういう問題は、安保条約を持ち出さなくても解決できる。第一、アメリカがついてこない。困難ではあっても好漁場の同海域に安全操業のルールをつくらなければならない。

 石垣市の前市長・大浜長照氏は、「尖閣に必要なのは、軍艦ではなく憲法9条だ」とよく訴えていたものだ。(しんぶん赤旗 2010年10月6日)


参考:尖閣諸島問題 日本の領有は歴史的にも国際法上も正当(しんぶん赤旗 2010年10月5日) 

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