見直し協議2年間まとまらず
日本共産党の赤嶺政賢議員は21日の衆院安全保障委員会で、米兵の「公の催事」での飲酒による交通事故は「公務」だとして、米側の第一次裁判権を認めた日米合同委員会合意(1956年)について質問しました。
2009年6月の衆院外務委員会での赤嶺氏の質問に、外務省の梅本和義北米局長は、同合意について現在の社会通念に合わず「死文化」しており、早期に見直すと表明していましたが、いまだ日米間で合意に至っていません。
合意に至っていない原因を問われた同局長は、刑事裁判権にかかわる問題は「米側で非常に慎重な手続きを要する」としつつ、「できるだけ早く結果を出したい」と答弁。赤嶺氏は「2年間も交渉しながら何も変わっていない。その間も『公務中』の事故が起きている」として、直ちに改めるよう求めました。
赤嶺氏は、今年1月に沖縄市内で成人式出席のために帰省していた男性(19)が運転する軽自動車が、米軍属の運転する普通自動車に衝突され、男性が死亡した問題に言及。米側の公務証明書を根拠に那覇地検が不起訴処分としたことに、被害者の母親が「この国は日本人ではなく外国人を守るのか」という怒りの声あげていると指摘。日本国内の米兵犯罪は、公務中であっても日本側が裁く立場に政府は立つべきだと迫りました。(しんぶん赤旗 2011年4月24日)
議事録
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
きょうは、米軍犯罪の問題について聞きます。
日米地位協定第十七条は、米兵による公務中の犯罪については米側が第一次裁判権を有することを定めています。このもとで、被告米兵にどのような処分がなされているか、最近の事例について聞いていきます。
昨年の九月、岩国基地所属の米軍属が、道路横断中の当時六十六歳の男性、恩田さんをはね、死亡させました。二〇〇八年八月には、うるま市内で、米海軍兵が運転する乗用車が、対向車線に進入し、当時三十八歳の男性が運転するオートバイに正面衝突し、死亡させました。
まず外務省に聞きますが、このいずれの事案も、米側が第一次裁判権を行使しております。米側においてどのような処分がなされたのか、説明していただきたいと思います。
○梅本政府参考人 ただいま委員御指摘のように、地位協定、それからそのもとでの日米合同委員会の合意によりまして、一次裁判権の問題について調整がなされているわけでございます。
そして、日米合同委員会の合意によりますと、米軍人または軍属に対して米側にて裁判が行われた場合の裁判の最終の結果は、日米合同委員会を通じて我が国政府に通報されることになっております。
二〇〇八年八月にうるま市で交通死亡事故が起きておりますけれども、この米軍人につきましては、米側が一次裁判権を有するということでございますが、米側の処分の結果については、現時点までには、日米合同委員会を通じた通報は行われておりません。したがって、承知をしていないところでございます。赤嶺委員の質問通告を受けまして米側に照会をしているところでございますが、残念ながら、現時点ではまだ回答は得られていないということでございます。
二〇一〇年九月の岩国市の方の件でございますが、この米軍属につきましては、米側は、自動車を運転する権利を通勤時を除き四カ月間制限するとともに、運転安全講習の履修を義務づけるという懲戒処分を下したというふうに承知をしておりまして、この結果につきましては、米側により公表もされておりますし、また御遺族にも伝達されたというふうに承知をしております。
○赤嶺委員 第一次裁判権を持っている米側が、その処分について、通報の義務がありながら、まだ何の通報もない。岩国については、裁判ではなくて懲戒ということで、四カ月の運転禁止ということなわけです。
外務大臣、男性をはね、そして死亡させておきながら四カ月の運転禁止というのは極めて甘い処分だと思いますが、外務大臣の認識はいかがですか。
○松本(剛)国務大臣 人の命が失われるということは大変重いことであるということは、私もそのように思います。
我が国においても、残念ながら、交通事故において亡くなられる方があって、それぞれ、我が国の法律に基づいて手続をとられることもあるというふうに考えますが、個別具体の事案があるかと思いますので、一つ一つの事案について軽重を私がここで申し上げるのは差し控えさせていただきたいと思いますので、今の個別の事案について、重い、軽い、甘いというようなことは、私からのコメントは差し控えさせていただきたいと思います。
○赤嶺委員 第一次裁判権を米側が持ち、裁判はせずに、懲戒処分として四カ月の運転禁止。これは日米外交のかなめの問題ですよ。日本の国内で起きている交通事故それぞれについて裁判が行われて処分が出されたということとは全く別のやり方でやっている。それについて言及しないというのは、私は、外務大臣、おかしいと思います。
最近も悲惨な事案が起きています。ことし一月、沖縄市内で、米軍属の運転する普通自動車が、中央線を越え、北中城村出身の当時十九歳の男性、與儀さんの軽自動車に正面衝突し、死亡させました。與儀さんは、成人式に出席するため、勤務先の愛知県から一年ぶりに帰省し、事故に遭いました。
法務省に聞きます。
検察は、三月二十四日付で、公務中であることを理由に不起訴処分にいたしました。具体的に、公務中と判断した根拠は何ですか。説明していただけますか。
○甲斐政府参考人 お答え申し上げます。
本件につきましては、県警から事件の送致を受けまして、那覇地検の方で捜査をしておりましたけれども、米側から公務証明書が提出されました。また、それだけではございませんで、那覇地検においても所要の裏づけ捜査をした結果、この被疑者につきましては、職場から自宅に帰宅する途中の事故であったということが認められましたので、公務中の犯罪というふうに判断されたものと承知をいたしております。
○赤嶺委員 米側が公務中でしたという証明書を発行しました、タイムカードを見ると十分前に基地を出ていました、これで公務が証明されたのかと母親は怒っているわけですね。問いたださなかったのか。例えば日米合同委員会合意の中でも、帰宅途中にどこかに立ち寄った事実はないのかとか、あるいは飲酒検知の結果はどうだったのか、具体的に公務であるという証明を、納得がいくような説明が必要じゃないですか。いかがですか。
○甲斐政府参考人 事件につきましては、個別の案件でございますので証拠関係については差し控えさせていただきたいと思いますが、御遺族の方には、地検の方から、認定の理由等を御説明させていただいているところであると思っております。
公務中かどうかという点につきましては、先生おっしゃるように、公務証明が出されたというだけでそれをそのまま認定するというだけではなくて、所要の裏づけ捜査を行うということをしておりまして、そういった証拠を見る限りにおいて、公務中であるということを否定するには至らないということであろうかと思います。
○赤嶺委員 報道によりますと、母親の質問に対して、飲酒検知はしていなかったという報道もありますが、それは事実ですか。
○甲斐政府参考人 個別の証拠関係については差し控えさせていただきたいと思いますが、本件につきましては、飲酒の上での交通事故というふうには見ていなかったと承知をいたしております。
○赤嶺委員 検知をしたかどうかを聞いているわけです。
與儀さんのお母さんは、日本に住んでいる外国人が日本で起こした事故なのに、一人の命を奪っておいて、なぜ日本の裁判で罪に問えないのか、この国は日本人ではなく外国人を守るのか、このように訴えております。
日本政府は、こうした被害者の声を正面から受けとめて、たとえ公務中であれ公務外であれ、日本国内で起きた米兵犯罪については日本側が裁くという立場に立つべきだと思いますが、外務大臣、どういう認識ですか。
○松本(剛)国務大臣 御遺族のお気持ちは察して余りあるものがあるというふうに私どもも考えております。
その上で、日米安全保障条約、そしてそれに基づく在日米軍の活動に関する地位協定という、いわば我が国と米国との間で結ばれた協定に基づいて行われるものであると理解をしておりまして、決して、我が国の国民を守らず外国人のみを守るというような趣旨でこの協定があるというふうには理解をいたしておりません。
○赤嶺委員 起こっている事実に照らして、今の外務大臣の答弁というのは極めてとんちんかんです。
二〇〇八年に犠牲になった、相手の米兵が公務中だといって第一次裁判権をとった、その後どうなったか、結果について通報さえやっていないわけですね。これでどうやって被害者が、自分たちの家族の加害者は公正に裁かれた、こんな受けとめができるんですか。できようがないじゃないですか。第一次裁判、公務中であれ公務外であれ、日本の国内で起きた事件は日本の国で裁くというのが公平というものじゃないですか。やはり外務大臣の認識は根本から間違っていますよ。
私は、この点に関して北米局長に聞きますが、通勤途中の米軍人軍属が飲酒して交通事故を引き起こしても公の催事の場合は公務と認められるという一九五六年の日米合同委員会合意があります。二〇〇九年六月の外務委員会で、私はこの合意を取り上げました。当時、北米局長は、合意は死文化している、アメリカ側と見直しの協議を行っていると述べ、すぐにも見直しが実現するかのような説明をいたしました。
ところが、先日、沖縄の地元紙の報道で、いまだに日米間で合意に至っていないということがわかりました。なぜ合意に至っていないんですか。
○梅本政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、この問題につきましては、事実上死文化しておりますし、また社会的通念に合わないということで、私どもの方から、これを見直そうということで、アメリカと協議を行ってきております。また、現に現在も協議をしておるところでございます。
一般的に、刑事裁判権に係る問題については、アメリカ側においても非常に慎重な手続を要するということもございまして、私どもが当初期待していたようなスピードでは協議は進んでおりませんけれども、私どもとしては、できるだけ精力的に協議をして、できるだけ早く結果を出したいという気持ちで協議をしているところでございます。
○赤嶺委員 条文は死文化している、日本の社会通念に合わない、それが残っているということは、米軍の特権を認めているということですよね。すぐにでも改善できるというようなことを北米局長自身が二年前に答弁したわけですよね。それで、アメリカが納得していない。だから、期待していたスピードをもって、いまだに何も変わらない。
アメリカ側は、社会通念上そぐわないと思っているのか、思っていないのか。やはり催事の際の飲酒は公務であり、そして酒気運転として捕まっても第一次裁判権は米側が持つのは当然だというぐあいに思っているのか、何を考えているのか、何を主張しているから今に至るも合意に至っていないのか、具体的に説明すべきじゃないですか。
○梅本政府参考人 お答えいたします。
ただいま協議をしておりますので、まさに協議をしている途中でその内容等について明らかにすることは差し控えさせていただきたいと思います。
ただ、アメリカ側も、日本側の論点というのはよく理解をしております。したがって、私どもは、引き続き精力的に協議をしていきたいというふうに思っております。
○赤嶺委員 常識的に、全く社会通念にも合わないと言いながら、そして二年間も交渉しながら、何も変わっていない。何も変わっていない一方で、公務中の交通事故はどんどん起きている。その際に、第一次裁判権は米側が持つといって、米側は裁判しているわけじゃないんですね。懲戒処分程度におさめて、そして懲戒処分であれば日本側に通報しなくてもいいような仕組みになっている、地位協定の十七条のこの仕組みというのは、どこから見ても対等、平等な日米関係ではないし、米軍犯罪を裁く公平な仕組みにはなっていないということを強く要求しまして、私の質問を終わります。