国会質問

質問日:2023年 4月 7日  第211国会  安全保障委員会

米国による中国気球撃墜 外交解決の後押しこそ 赤嶺氏が主張

衆院安保委

 

 日本共産党の赤嶺政賢議員は7日の衆院安全保障委員会で、米国による中国の「偵察気球」撃墜に支持を表明した政府の対応を批判し、外交解決の後押しこそやるべきだと求めました。

 赤嶺氏は「いかなる国によるものであれ、他国の領空を侵犯することは許されない」と強調。そのうえで、政府が従来、領空侵犯機には国際法・慣習をふまえ、領域外への退去や着陸を求め、実力で抵抗してきた場合に初めて武器を使用できると説明してきたことを指摘し、米国の対応をただしました。外務省の岩本桂一審議官は「慎重かつ合法的に対処した」との米側の説明を述べるだけでした。赤嶺氏は、バイデン大統領が発見当初から撃墜を命じていたことにふれ、「国際法・慣習をふまえたものとは言えない」と指摘しました。

 また赤嶺氏は、米国自身が戦後領空侵犯を繰り返してきた事実を挙げ、「支持表明は米国の二重基準を追認することになる」と批判。林芳正外相は「外務省として答える立場にない」と答弁を避けました。

 赤嶺氏は撃墜に中国が抗議を表明し、米中間の話し合いが成り立たなくなったと指摘。米国への支持表明に終始するのではなく、「いかなる国もお互いに国際法違反はしないことを共通認識にする外交的な後押しこそやるべきだ」と政府に求めました。

 

質問の映像へのリンク

外交解決の後押しこそ(衆院安保委)

議事録

○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
 私の方からも、質問に入る前に、宮古島海域で起きた自衛隊の事故について、政府として、また防衛大臣としても、全力を挙げた捜索、そして救助に全力を挙げていただきますように心からお願いをしたいと思います。
 それでは、質問に移ります。
 アメリカによる中国の気球撃墜について質問をします。
 三月九日の当委員会で、この件に関する日本政府の公式な見解を確認しました。外務大臣からは、「各種の情報収集、分析を踏まえて、米国の立場を支持するに至った」との説明がありました。いかなる国によるものであれ、他国の領空を侵犯することが許されないことは、これはもう当然でありますが、今回の支持表明には様々な問題があるのではないかと思っております。
 初めに、国際法規、慣習の関係についてであります。
 大臣に確認しますが、米国防総省のライダー報道官は、二月三日の記者会見で、今回の気球が操縦可能なものであること、進路を変更しながら飛行してきたことを明らかにしています。
 アメリカ政府は、撃墜という判断を下す前に、中国政府に対し、進路の変更や退去を求める、あるいは安全な場所に着陸、着水させるなどの対応、これはどうだったのでしょうか。

○岩本政府参考人 今委員から御指摘のありましたアメリカ政府の立場でございますが、その点、アメリカ側が対外的にも説明していることは承知をいたしております。
 その上で、アメリカ側が中国側とどのようなやり取りをしたのかということについては、我が国政府としてコメントすることは差し控えさせていただきたいと思います。

○赤嶺委員 私が聞いたのは、今回の日本政府の支持表明、それとの関係で、アメリカ政府は撃墜する前に、進路の変更や着陸、着水させるなどの対応を取ったのか、この点を確認したいと思います。

○岩本政府参考人 本件につきましては、アメリカ政府は、中国側によって容認し難い主権侵害が行われた、そうした上で、自国の主権や国民の安全を守るため、慎重かつ合法的に対処した旨説明しておると承知しております。
 我が国としましては、こうした説明を受けて、我が国として米国の立場を支持する、こういった立場を表明させていただいたところでございます。

○赤嶺委員 非常に曖昧な説明なんですが、政府はこれまで、領空侵犯への対応は国際法規、慣習を踏まえて行われるべきものと説明してきました。具体的には、領空侵犯機に対し、領域外に退去するか最寄りの飛行場に着陸するよう警告、誘導を行い、侵犯機がこれに従わず、実力をもって抵抗してきた場合に初めて武器を使用できる、このようにしてきました。
 佐藤栄作首相は、一九六九年四月の衆議院本会議で、「まず警告し、退去を促すのが国際的慣行であると思います。いきなり撃墜する、かようなことはございません。」こういう答弁をしております。
 ところが、今回、アメリカ政府から中国政府に対し、進路の変更や着陸、着水をさせるなどの対応を要請したとの説明は行われておりません。
 それどころか、バイデン大統領は、気球について初めて説明を受けた二月一日に、できるだけ早く撃墜するよう命じた、このように明かしております。破片の飛散で被害が発生するおそれがあったことから、陸地上空では行いませんでしたが、海上上空に到達するや否や撃墜に踏み切りました。
 今回のアメリカ政府の対応は国際法規、慣習を踏まえたものとは言えないのではないかと思いますが、いかがですか。

○岩本政府参考人 アメリカ政府は、中国政府が米国の許可なく米国の領空においてこの無人偵察用気球を使用して米国本土の戦略的拠点の監視を行ったとしております。
 これは米国の主権を侵害する違法な領空侵犯に当たりまして、また、そのような無人偵察用気球を破壊することは、アメリカが主権や国民の安全などを守るために必要かつ均衡の取れた措置であったと理解しておりまして、国際法上、十分正当化できると考えております。

○赤嶺委員 今まで説明してきたことと違うわけですね。
 確かに、領空侵犯というのは、起こったときには主権を行使するわけですよ。その場合も、非常に慎重に、求めてきたわけですね。進路の変更だとか着陸、着水、こういう要請を国際社会は行ってきたわけですよ。当初から撃墜を命じ、実行した経緯から、今回のアメリカ政府の対応は国際法規あるいは慣習を踏まえたものとは言えないということをまず指摘しておきたいと思います。
 次に、これまでのアメリカ政府自身の行動との関係についてであります。
 戦後、アメリカは、他国の軍事施設の偵察を目的に、領空侵犯を繰り返してきました。
 皆さんのお手元に資料をお配りしていますが、「領空侵犯の国際法」という一九九〇年に発刊された書籍があります。これに基づいて、戦後の各国による偵察目的の領空侵犯の件数を集計したものであります。最も多いのはアメリカで四十九件、次が旧ソ連で三十五件、あとは一から二件となっております。これは一九九〇年当時の数字でありますが、外務大臣、戦後アメリカが偵察目的の領空侵犯を繰り返してきた事実は、これはお認めになりますか。

○林国務大臣 今お話のありました米軍航空機等の飛行の逐一が他国に対する領空侵犯であったかどうか等については、外務省としてお答えする立場にはないということでございます。

○赤嶺委員 曖昧ですけれどもね。アメリカ政府自身も認めている二つの事例があります。一つが、ゲネトリクス計画です。一九五六年にアイゼンハワー政権が四百四十八機の偵察気球をヨーロッパからソ連や中国の上空に飛ばし、そのうち四十機を回収したというものです。アメリカ空軍が空軍の歴史をまとめた一九九七年の文書などでも飛行の事実は記載をされております。
 もう一つは、一九六〇年に、これはもう有名な事件ですが、ソ連上空を偵察飛行中のU2の偵察機が撃墜された事案であります。アメリカ政府は当初、気象観測用の航空機が行方不明になっていると説明をしましたが、ソ連が領空侵犯をした米軍機を撃墜したと公表し、生き残った米軍兵士の供述も明らかにされたことから、アメリカ政府はその事実を認めました。
 こうした歴史的な経緯がありながら、今回の撃墜に対して、理解にとどまらず、日本政府が支持まで表明するというのは、アメリカのダブルスタンダードを追認してしまうことになるのではないかと危惧いたしますが、いかがですか。

○宮本政府参考人 お答え申し上げます。
 今言及のございました幾つかの例に関しましても、我が国は当事国ではございませんので、個々の具体的な事案について詳細に確認することができませんことから、外務省としてお答えすることは差し控えたいと思います。
 いずれにしましても、今議論されております気球の事案に関しましては、事柄の性質上、詳細についてお答えすることは差し控えたいと思いますけれども、各種の情報収集、分析を踏まえて、我が国として米国の立場を支持するに至ったものでございます。

○赤嶺委員 今私が紹介した二つの事例というのは、アメリカ自身も認めていることなんですね。アメリカ自身が領空侵犯を繰り返してきた事実を脇に置いて、支持まで表明するというのは、私は妥当な対応ではないと思います。日本は当事国ではないのでと言いますが、この事件で指摘しておかなければいけないのは、こうした米軍による領空侵犯行為と日本は無関係ではありません。
 ゲネトリクス計画で気球の回収に当たったのは在日米軍と指摘をされております。U2偵察機は、撃墜される前の年の一九五九年、神奈川県の藤沢飛行場、当時の藤沢飛行場に燃料切れで不時着したのと同一の機体でした。国籍不明の黒いジェット機と言われ、国会でも問題になりました。米軍基地を提供することで、こうした国際法違反の領空侵犯行為に手をかしてきた事実に目をつむることは私は許されないということを指摘しておきたいと思います。当事国ではないからという言い分は通用しません。
 もう一点伺いたいのは、撃墜という行為が問題の解決に資するのかということです。
 中国政府は当初、民間の気象研究用の飛行船だと主張し、偵察目的自体は認めませんでしたが、それでも、遺憾を表明し、米側と意思疎通を保ち、適切に対処すると述べていました。ところが、アメリカ政府が撃墜に踏み切って以降、国際慣例に反するとして強い不満と抗議を表明し、事実の究明と再発防止どころか、米中間の話合い自体が成り立たない事態になりました。
 撃墜という行為を選択したことが問題の解決を逆に遠ざける結果になっているのではないかと思いますが、外務大臣、いかがでしょうか。

○林国務大臣 本件につきましては、米国は引き続き調査を行っておると承知をしておりまして、今のお話、御指摘のあったことについて予断を持ってお答えするということは差し控えたいと思います。
 その上で、本件につきましては、米国政府は、米国の許可なく米国の領空に侵入した本件無人偵察用気球、これは、中国政府が米国領空において米国本土の戦略的拠点を監視する目的で使用したものでありまして、自国の主権や国民の安全を守るため慎重かつ合法的に対処したと説明をしておると承知をしておりまして、こうしたアメリカの立場を我が国として支持をしておるということでございます。

○赤嶺委員 どの国が行おうとも、領空侵犯はその国の主権を侵すもので、許されるものではありません。ただ、それの解決の仕方、そこは今までの国際法や慣例とも違うやり方を取っている、それが問題の解決を複雑にしているということを申し上げているわけであります。
 幾つかの点からただしてきましたが、今回の支持表明は、私はどこから見ても妥当性を欠くものだったと思います。日本政府は、アメリカの行動を支持するという対応に終始するのではなくて、これまでの歴史的経緯も踏まえて、いかなる国もお互いに国際法に反するようなことはやらないということを共通の認識にしていくための外交的な後押しこそやるべきであります。それが日本に対して同様の行為を繰り返させないことにもつながっていくと思います。いかがですか、大臣。

○林国務大臣 先ほど申し上げたとおり、米国はまだ調査を行っておる段階でございます。
 我が国の立場、なぜ支持したかということは先ほど申し上げたとおりでございます。その申し上げた立場にのっとって、しっかり対応してまいりたいと思っております。

○赤嶺委員 最後に防衛大臣に伺います。
 防衛省は、今回の撃墜を反面教師にするどころか、自衛隊も同様の行為が可能とする見解をまとめました。対領空侵犯措置の一環として防衛省が今回取った措置は、従来の正当防衛、緊急避難に該当しなくても、無人の気球や飛行船に対して武器を使用できるというものです。
 そもそも、領空侵犯措置における武器使用は、法律に明文化されたものではありません。政府の解釈で「必要な措置」という規定の中で読み込んでいるだけにすぎません。
 なぜ、政府の一方的な解釈変更で自衛隊の武器使用を拡大できるんですか。

○浜田国務大臣 従来から政府は、国会での議論に際し、小型無人機を含めた外国の航空機による我が国の領空への侵犯に対する対処に万全を期すため、その在り方について不断の検討を行っている旨答弁しているところであります。
 今般検討を行った結果として、領空侵犯をする気球を含む無人の航空機についての整理を示したものであり、政府見解を変更するものではありません。そのため、必ずしも国会での議論を経て決めるべきものとは考えておりませんが、今後とも、国会の場を含め、丁寧に説明してまいりたいと考えておるところであります。

○赤嶺委員 終わります。

すべて表示

参考資料

委員会配布資料

このページをシェアする