衆院憲法審査会は18日、憲法54条の参院緊急集会をめぐり参考人質疑を行いました。
長谷部恭男早稲田大学大学院教授は「緊急事態」における国会機能の維持を理由に、国会議員の任期延長を可能にする改憲議論は「任期を延長された衆院と従前の政権が長期にわたり居座り続ける緊急事態の恒久化を招きかねない」と警告。「総選挙を長期にわたり先送りする状況は簡単に発生しない」と述べ、公職選挙法に基づく繰り延べ投票や制度改正で十分に対応できると指摘しました。
日本共産党の赤嶺政賢議員は、国会機能維持の大前提は「国会が国民に正当に選挙された議員で構成されていることだ」と強調し、「国民の参政権を奪うのではなく、いかに保障するかの議論こそ必要ではないか」と質問。長谷部氏は「その点は大変重要だ。最高裁判例では、選挙権は本当にやむを得ない場合でなければ制限してはならないとしている」と述べました。
赤嶺氏は、昨年2月の審査会で高橋和之東大名誉教授が、災害や感染症を理由とした緊急事態条項の創設を極端な事例で議論すれば「間違う危険性が高い」と強調した点を質問。長谷部氏は「どれほどの緊要性・がい然性で起こりうるかは、重々慎重に考えなくてはならない」と指摘。大石真京大名誉教授は「国会、内閣が正常に機能していれば立法などの対応ができる。それを全部踏み越えて議論することへの警鐘だ」と述べました。(しんぶん赤旗 2023年5月19日)
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議事録
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
今日は、長谷部先生、大石先生、大変参考になるお話、ありがとうございました。
長谷部先生にお伺いをいたしますが、議員任期の延長の理由として、国会機能や二院制の維持が強調されております。しかし、その大前提は、国会が国民に正当に選挙された議員で構成されているということでなければなりません。国民が選挙権を行使する機会を奪って、国民の意見が反映されていない形で任期を延長された議員が国政を担い続けるというのは、議会制民主主義の根幹を揺るがすものだと思います。ましてや、周辺有事への参戦という重大な意思決定に際して、国民が意思を表明する機会を奪うことは、断じて許されないと思います。
国民の参政権を奪うのではなく、いかに保障するかという立場からの議論こそ必要だと思いますが、この点について、長谷部先生の御意見をお伺いしたいと思います。
○長谷部参考人 冒頭の陳述でも申し上げましたが、まさにその点は大変重要な論点でございまして、最高裁の判例も、選挙権に対する制限というのは、本当にやむを得ない場合でなければ制限をしてはいけないのだということを言っております。
したがいまして、たとえ選挙の実施に困難が生ずるということがありましても、困難が解消され次第、順次やはり選挙は実施していくべきものであるというふうに考えている次第でございます。
○赤嶺委員 もう一点、長谷部先生にお伺いしたいんですが、災害や感染症を理由に緊急事態条項を創設すべきだという主張について、この審査会に参考人として出席した東京大学の高橋和之教授は、極端な事例を出して議論をすれば間違う危険性が高いということを強調されました。この点についての長谷部先生の御意見を伺いたいと思います。
○長谷部参考人 確かにそれは、高橋参考人がおっしゃるとおりのところはあるだろうと思います。
理論的にはいろいろなことが考えつくわけではございますけれども、実際、本当にそういった事態は、どれほどの緊要性があり、あるいはどれほどの蓋然性で起こり得るものなのか。それはやはり重々慎重にお考えの上で対応策は考えなくてはいけないものだと思いますし、そして、先ほども申しましたとおり、現行憲法が規定をしております緊急集会制度というのは、平常時と非常時とを明確に分ける、そういう意味では極めて優れた制度であると私は考えているところでございますので、やはり、なおさら慎重な考慮が必要ではないかと考えております。
○赤嶺委員 引き続き長谷部先生に伺いますが、憲法五十四条の参議院の緊急集会に関する規定は、私たちは、国民の自由と権利を奪い、侵略戦争に突き進んだ歴史への反省と一体のものだ、このように考えています。
ところが、今、戦争やテロなどの緊急事態に対応するためとして、議員任期の延長や、内閣による緊急政令、緊急財政処分の議論まで行われるようになっています。また、今国会は安保三文書の議論が行われていますが、政府は、安保法制に基づいて、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃が可能だという主張まで行っております。
参考人は、二〇一五年、この憲法審査会で、集団的自衛権の行使は憲法違反だという意見を述べられました。あれから八年になろうとしていますが、緊急事態条項の創設や敵基地攻撃能力の保有が議論される今の憲法状況についてどのようにお感じになっておられるか、御意見がありましたらよろしくお願いします。
○長谷部参考人 ちょっと、憲法状況全般について所見を述べる、そういう用意が少なくとも今はございませんで、ただ、冒頭におっしゃいました、憲法五十四条の定めている四十日それから三十日、この規定、そもそもの目的は何かといえば、これは、現在の民意を反映していない従前からの政府、政権の居座りを防ぐ、それがそもそもの目的でありまして、これは各国の比較からも明らかな話でございますから、この目的をやはり第一に据えて物事をお考えいただく、これも必要なことではないかというふうに考えている次第でございます。
○赤嶺委員 ありがとうございました。
大石先生にも伺いたいのですが、大石先生は、マスコミのインタビューで、緊急事態条項には二つのレベルがあるとして、災害やテロ、感染症などの対応については、国会や政府が現行法の中でどれだけ適切な措置を取るかという話に尽きる、このように述べておられます。
これは具体的にどのような考えでおっしゃっているのか、先生の御意見をお伺いできればと思います。
○大石参考人 お答えいたします。
緊急事態という言葉をどう使うかというところで、既にいろいろな議論があり得るんですけれども、先ほどから長谷部参考人もおっしゃっているとおり、一つには、国家の存立そのものが問題になるという局面がよく考えられていて、それが国家緊急権という形で議論されたりするんですが、少なくとも五十四条が考えているような事態は全くそれではありません。やはり、国会や内閣を始めとして国家機関の正常な活動が期待できないという場合に備えてどうするかというのは、これは憲法上の手当てが必要なのかなというふうに思います。
その上で、いろいろな災害上の緊急事態とかがありますけれども、取りあえず国会なり内閣が正常に機能していれば立法的な対応で何とかできるという部分もあるわけでして、そういういろいろな段階のことを一応分けて議論をしなきゃいけないんだというふうに思います。
先ほど、高橋和之先生の話が出ましたが、だから、それを全部踏み越えて全部話をしなさいということに対する警鐘だろうというふうに私は受け取っております。
以上です。
○赤嶺委員 ありがとうございました。これで終わります。