衆院安保委
日本共産党の赤嶺政賢議員は10日の衆院安全保障委員会で、自衛隊の防弾チョッキなどを紛争当事国であるウクライナへ提供したことについて「日本が紛争当事者になりかねない」と批判し、「避難民支援などの非軍事支援の役割に徹するべきだ」と迫りました。
赤嶺氏は、従来の武器輸出三原則は日本国憲法の平和主義に立脚する国是として、紛争当事国だけでなく、そのおそれのある国への武器輸出も全面的に禁止してきたことを指摘。2014年に政府が同原則を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を閣議決定した時も「国際協力や我が国の安全保障に資する場合に限定し、特例は認めない」と説明していたと強調。「運用指針」を改定し紛争当事国への軍事支援に道を開いたことを批判し、「運用指針を改定しさえすれば、どこまでも広げることが可能になるのではないか」と追及しました。岸信夫防衛相は「ウクライナは国連決議による紛争当事国でなく、同三原則の範囲内だ」と答弁しました。
赤嶺氏は「交戦状態のウクライナへの武器提供で、日本が紛争の当事者になりかねない」と主張し、政府の認識をただしました。林芳正外相は「本件供与の日ロ関係への影響については、申し上げる状況にはない」と答弁を避けました。
赤嶺氏は、ロシアによるウクライナ侵略への非難決議が国連総会で圧倒的多数で採択されたことに触れ、「こうした国際的な共同を広げる外交努力と避難民支援など非軍事の支援で積極的な役割を果たすべきだ」と強調しました。(しんぶん赤旗 2022年3月11日)
質問の映像へのリンク
議事録
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
先ほどもありましたが、初めに、ウクライナへの装備品等の提供について質問をいたします。
政府は、八日の国家安全保障会議で、自衛隊の防弾チョッキなどをウクライナに譲与することを決めました。まず、防衛大臣に、提供に至る経緯やあるいは事実関係について説明をいただきたいと思います。
○岸国務大臣 今般のロシアによるウクライナへの侵略は、断じて認められない、力による一方的な現状変更であり、国際秩序の根幹を揺るがすものであります。
我が国は、二月末のウクライナ政府からの要請を踏まえて、自衛隊法第百十六条の三に基づき、非殺傷の装備品等を防衛装備移転三原則の範囲内で提供するべく、三月八日に開催された国家安全保障会議において、防弾チョッキ、鉄帽、防寒服、天幕、カメラのほか、衛生資材、非常用糧食、発電機等を自衛隊機等により提供することにつき調整、検討することとなりました。
三月八日、国家安全保障会議において、防衛装備移転三原則運用指針を改定するとともに、ウクライナ政府との間の国際約束を閣議決定の上で締結し、それらの装備品等を自衛隊機によって輸送し、ウクライナ政府に提供することとなりました。これらの装備品等は、自衛隊法第百十六条の三に基づき無償で譲渡されることとなります。
提供手段については、第一便として、三月八日夜、自衛隊機KC767が提供物資の輸送のために出発しています。これ以上の詳細については、ウクライナ等との具体的な調整を行っているところでありますし、お答えは差し控えさせていただきます。
また、具体的な数量や今後の輸送計画については、現在調整中であることから、支援する数量については現時点でお答えは差し控えますが、最終的に調整が済んだ段階でお示しいたします。
防衛省としては、装備品等を一日でも早く提供できるように全力で取り組んでまいります。
○赤嶺委員 今の説明ですと、防衛装備移転三原則の運用指針を改定し、そして、国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して、自衛隊法第百十六条の三の規定に基づいて防衛装備を供与できるようにやっているわけですね。
従前の武器輸出三原則は、一九八一年の国会決議で日本国憲法の理念である平和国家としての立場を踏まえたものと宣言し、確立したものであります。紛争当事国だけでなく、そのおそれのある国への武器輸出も全面禁止したものです。まさに憲法の平和主義に立脚する国是であり、本来、内閣の一存で変更することは許されないものであります。
政府が一遍の閣議決定でこれを撤廃し、現在の三原則を決定したときに、私たちは、憲法に反し、武器輸出を推進するものだと批判しました。それに対して政府は、国際協力や我が国の安全保障に資する場合に限定し、厳格に審査し、例外化は認めない、このように説明しておりました。
ところが、今回、また新たな規定を作ってウクライナへの提供を可能にしたわけです。例外化は認めないという当時の説明と違うのではありませんか。
○萬浪政府参考人 お答え申し上げます。
今回の措置につきましては、運用指針を改定いたしておりますが、防衛装備移転三原則につきましては、その範囲内といたしてございます。
防衛装備移転三原則の中には、安全保障上関係のある国に対する協力と書いてございまして、この範囲内であり、かつ紛争当事国、これは、国連決議により措置の対象となっている国を指していると移転三原則そのものには書いてございますが、これにも当たらないということで今回提供いたしておるものでございます。
ただし、大臣からも御答弁がございましたし、先ほども御答弁いたしましたように、今回、運用指針につきましては、この限定列挙の中に該当するものがなかったということで、三原則の下の手続では運用指針は追加しなければいけないということでこれを、閣議決定ではございません、九大臣国家安保会議決定でございますが、これを行いまして、運用指針について、移転し得るものというのを一つ追加したというものでございます。
○赤嶺委員 例外化は認めないという当時の説明とは全く違うわけですね。これでは指針を改定しさえすればどこまでも広げることが可能ということになると思いますが、大臣、いかがですか。
○岸国務大臣 今答弁がありましたとおり、今回の供与については、防衛装備移転三原則の範囲内で行われるものでございます。ウクライナについても、先ほどもありましたけれども、国連決議による紛争当事国ということではございません。その趣旨にも合致するものであります。
今回の運用指針の改正によって、防衛装備移転三原則が例外を認める、あるいは形骸化するものであるということは考えておりません。
○赤嶺委員 政府は、提供の根拠として自衛隊法百十六条三の規定をさっき挙げておられました。しかし、この規定も、あくまでも災害対応や情報収集、教育訓練などの活動のために、開発途上地域の政府に対し不用になった自衛隊の装備品を譲渡できるようにするものです。財政法の特例として、あくまで、不用になって、使わなくなった装備品を提供できるという規定です。
今回譲渡する装備品は不用なものなのか。自衛隊で必要なものとして保管なり使用なりしていたものではないですか。
○萬浪政府参考人 お答え申し上げます。
防衛省・自衛隊では、損耗更新、あるいは予備として部隊等で使用する以外にも、一定数の装備品等を貯蔵してございます。
今回ウクライナに供与いたしますものは、自衛隊法百十六条の三に基づきまして、自衛隊の任務の遂行に支障のない限度におきまして、例えば、損耗更新をされたもの、あるいは、以前に取得したものであって直ちには用に供しないものでございます。
部隊の円滑な運用のためには、装備品等の一定の在庫は必要です。そのため、防衛省・自衛隊において装備品等を貯蔵することが不必要な装備品を平素から購入するということでもございませんし、繰り返しになりますけれども、今回のものは以前に取得したもの等でございまして、直ちに用に供しないものを提供することとしたというものでございます。
○赤嶺委員 直ちに使用するかどうかは別にして、不用なものではないわけですね。自衛隊法の規定からも外れております。
自衛隊法の中にあります対象は、開発途上地域ということになっています。これはどんな基準で決めているのか。ウクライナはその開発途上地域に該当するんですか。
○萬浪政府参考人 お答え申し上げます。
まず、ウクライナは開発途上地域に該当いたすと考えてございます。理由を述べますと、開発途上にある海外の地域と条文上書いてございますのは、一般には、経済協力開発機構、OECDの開発援助委員会、DACでございますけれども、これが作成する開発途上国リストに掲載される国等を指すものと承知しておりますので、その意味で、繰り返しになりますが、ウクライナは該当すると考えてございます。
○赤嶺委員 二〇一七年の自衛隊法改正で、この規定を盛り込むときに、紛争当事国に提供できるというような説明は一切行っていませんでした。なぜ、この規定で交戦中のウクライナへの譲渡ができるんですか。
○萬浪政府参考人 お答え申し上げます。
御質問の点でございますけれども、御指摘の百十六条の三、自衛隊法でございますけれども、これにつきましては、防衛装備協力の一環として譲渡を行うことが適当と考えられる活動を、先ほど御指摘もありましたが、具体的に規定することにより、その協力を分かりやすく例示はしておりますが、この条文にもございますように、国連憲章の目的と両立しない活動を除きまして法律上あらかじめ使用目的を限定するという書き方にはなってございません。
現在、ウクライナが侵略を受けているという状況におきまして、ウクライナが国連憲章の目的と両立しない活動を行っていないことは明白でございます。また、このような状況の中で我が国が協力を行うことは、国際的な平和及び安全の維持に資するものでございます。そのため、今回私どもが行います支援といいますのは、この条文の趣旨に合致したものであると考えてございます。
○赤嶺委員 今回のものは、自衛隊法にある災害対応や教育訓練、交戦中の国への譲渡ということでは全く質が異なっております。無理に、強引に、従来の武器輸出三原則ではあり得なかったやり方で、憲法にも関わる行為を今の自衛隊法の規定で読み込めるというのはちょっと乱暴じゃないか、脱法的な解釈ではないかということを指摘しておきたいと思います。
今回の決定については、報道によると、担当者が、法の空白をついたぎりぎりの判断だったと報じられているわけですね。法律の趣旨を飛び越える決定で、法治国家にもとるものだと言わなければなりません。
今回のロシア政府による軍事攻撃は、ウクライナの主権と領土保全を侵害し、国連憲章を真っ向から踏みにじる侵略行為そのものであり、断じて容認できません。ロシア政府は直ちに違法な武力行使を停止し、軍を撤退させるべきであります。
先日の国連総会では、圧倒的多数の賛成で非難決議が採択をされました。日本政府は、こうした国際的な共同を広げるための外交努力、そして連日深刻な状況が報告されているウクライナの避難民支援など、非軍事の支援で積極的な役割を果たすべきであります。
しかし、交戦状態にあるウクライナに武器を提供することは、事の性格からいって、日本がこの紛争の当事者の立場に身を置くことになりかねないと思います。政府は、その点、どのように認識しておりますか。
○林国務大臣 今回のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす行為でございます。明白な国際法違反であり、断じて許容できず、厳しく非難をいたします。
この国際秩序の根幹を守り抜くために、国際社会が結束して毅然と行動しなければならないと考えます。我が国としてこのことを示すべく、断固として行動してまいります。
我が国は、主権と領土、そして祖国と家族を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民とともにあります。国際社会は、ロシアのウクライナ侵略により、ロシアとの関係をこれまでどおりにしていくことはもはやできないと考えております。
今、この状況に鑑みれば、本件供与の日ロ関係への影響については申し上げる状況にはないと考えております。
○赤嶺委員 外務大臣の前段の答弁はそれでいいんですけれども、最後のところは、紛争の当事者になるのではないかという私の質問には答えておりません。
ウクライナへの旧ソ連製の戦闘機の提供をめぐって、アメリカとポーランドの間で駆け引きが続いています。
当初、アメリカは、ポーランドが保有するミグ29をウクライナに提供し、その代わりに別の戦闘機をポーランドに提供するとしていました。ところが、一方のポーランドは、ミグ29をドイツの米軍基地に移送して、アメリカが自由に使用できるようにする用意があると発表をいたしました。
アメリカは、支持できないと、反対の立場を表明しております。戦闘機を提供することで紛争の直接の当事者になり、紛争の拡大を招きかねないからです。戦闘機と防弾チョッキの違いはありますが、紛争の当事者になりかねないという意味では同じだろうと思います。
私は、ウクライナへの支援は非軍事の支援に徹底してやるべきで、こういう紛争当事者になりかねないような装備品の提供はやるべきではない、脱法的な行為だということを申し上げて、質問を終わります。