衆院憲法審査会は24日、国会での「オンライン審議」に関し、憲法56条で定める「両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」との規定について、高橋和之・東大名誉教授と只野雅人・一橋大学大学院教授に対する参考人質疑を行いました。高橋氏は、オンライン審議は憲法の趣旨に反すると述べました。
高橋氏は「憲法56条は『ルール』を定めた規定であり厳格な解釈適用が要請される」と主張。この規定は「少数者を保護し、権力の乱用を防止するためのものだ」と指摘し、「柔軟な解釈で拡張すること」は避けるべきだと発言しました。その上で、「憲法は政治権力の行使を統制するものであり、権力行使の便宜のために統制を外すのは、憲法の趣旨に反する考え方だ」と強調し、「権力行使の要件を緩めれば、乱用の危険が増大する」と述べました。
只野氏は「一定の条件のもと、やむを得ない事情があれば、議場外からの参加も可能」と述べる一方で、「どういう条件で憲法上可能なのかは、確認する必要がある」との考えを示しました。
自民党などが、首都直下型地震や新たな感染症など緊急事態への備えとして、オンライン出席を可能にする規定の必要性を質問。高橋氏は「極端な事例を出せば、権限をどこかに大幅に委譲する以外の解決方法はなくなってしまう」「1人に権限を集中するしかなくなる」と指摘し、「間違える危険が高い」と述べました。
日本共産党の赤嶺政賢議員は、自民党の新藤義孝議員が幹事会で「オンライン審議」に対する方向性を整理するとの考えを示したことについて、反対を表明。「この間、憲法56条の解釈を確定し、オンライン審議実施のための制度設計を急ぐべきだという発言が繰り返されている。憲法審で個々の条文の解釈を確定していくというやり方は非常に問題だ」と指摘しました。(しんぶん赤旗 2022年2月25日)
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議事録
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
先ほど新藤先生からの幹事会での御意見の披瀝がありましたが、私はその反対の立場もまた明確にしておりますので、筆頭間協議でも是非尊重していただきたいと思います。
この間の審査会の議論の中で、この憲法審査会において、憲法五十六条の解釈をあたかも確定して、オンライン審議を実施するための制度設計の検討を急ぐべきだという発言が、この間、繰り返されました。憲法審査会で個々の条文の解釈を確定していくというやり方は非常に問題だということをまず申し上げておきたいと思います。
それで、今日は、高橋先生、只野先生、本当にありがとうございました。参考になる御意見をいただいたと思います。
まず、高橋参考人にお伺いいたしますが、五十六条は、憲法全体の構造に照らして厳格に解釈するべきであり、会議体の成立要件と議決の要件は、少数者を保護し、権力の濫用を防止するということも述べておられました。
これについて、参考人が述べられたのは、憲法が定める本会議の定足数などの規定は、本会議が法律を決定し、予算を可決するなどの権限を行使する上で、少数者の発言権を保護し、多数党による権力の濫用を防止するという趣旨だということで受け止めているわけです。また、これらの規定を便宜のために外すということは、憲法の趣旨に反する考え方であると述べられました。制度の悪用の危険性、濫用の危険の増大ということについて、またもうちょっと詳しく説明していただけないか。
それから、日本国憲法は、第四章において、本会議の成立要件以外にも、会議公開の原則、議員が何物にも干渉されず、自由に発言し、表決することなどを要請していますが、それは、国民主権と民主主義という憲法の基本原理に直結する規定であり、権力の行使を縛る立憲主義の重要な原則だという具合に理解しておりますけれども、その辺のところをまた御教示いただけたらと思います。
○高橋参考人 どういう濫用があるか、もう少し詳しくという御質問でございますが、定足数については、三分の一に満たない場合に、それをどうしても満たしたいと考える立場からは、実際にはオンラインでも不可能なような状態でも、何とかオンラインで参加するような形を整えようというような工作をする可能性が出てくるだろう。
ビデオ画面の裏側がどうなっているかということは、これは議員が恐らくチェックするという制度にはなかなかできないだろうと思いますから、そうすると、事務員にチェックさせるとかいうようなことになるだろうと思うんですね。そういうのは、やはりそういう人々を監督する立場にある人がかなり操作を行うということも可能になってくるだろう。
政治というのは私はそういうことをやり得ると思っておりまして、そもそも憲法というのは、そういう権力を行使する人たちを猜疑の目で見るものだというふうに学生の頃から教わってまいりまして、全くそのとおりだと思っております。
通常は非常に善良な方々ばかりだと思いますけれども、何らかの利害が絡んできて、この一票を何とかしたい、この定足数あるいは表決を何とかしたいというその場合に、ただ一票が問題になっている、あるいは二票が問題になっているというようなことになると、現場で確認しているときには操作するというのは不可能ですけれども、ビデオ画面で確認すればいいということになれば、そういう危険も起こり得るかもしれない。007の見過ぎかもしれませんけれども、むしろそういうことまで想定して考えていただきたいということであります。
○赤嶺委員 只野参考人にお伺いいたします。
今の五十六条の「出席」について、必ずしも物理的な議場への現存のみに限られないとして、物理的出席とほぼ同等の条件が確保されれば例外が許容される余地があるという御意見でありました。
ほぼ同等の条件の確保という場合に、いわば国会は最高の決議機関、統治機構としても権限、権力を擁しているところでありますし、今、高橋先生にお聞きしたことと同じ質問ですが、権力の濫用や制度の悪用の危険性について、これは只野先生、どのように考えておられますか。そしてまた、憲法の基本原理と五十六条の関係、これをどのようにお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。
○只野参考人 御質問ありがとうございます。
私のような解釈を取りました場合、やはり、それが濫用されないか、解釈が拡張されないか、こういう御懸念があるのはもっともかというふうには思いますけれども、やはり重要なのは、例外であることを確認いただく、何がデフォルトなのかということを共有した上で議論を進めていただく、こういうことかなというふうに思っております。
ほぼ同等ということを申しましたけれども、これは特に審議を考えていたところでございまして、議決だけに限れば、少しハードルはやはり下がってくるのかなというふうに思います。
なお、濫用の可能性があるではないかということについては、可能性は確かに否定はできないであろうというふうに思います。そうしますと、やはり重要なのは、どういう場合に例外が認められるのかということをきちんと限定いただく、こういうことかなというふうに思います。
可能であれば、例えば議院の職員の方がついて確認いただくということがあると一番よいのですけれども、今日お話があったような緊急事態の場合は、なかなかそれはやはり難しいのかなというふうには思うんですね。その中で可能な範囲で御対応いただくということになるのかなというふうに思っております。
それから、憲法全体における五十六条の趣旨ということでございますけれども、これは、まさに、議院としての意思決定の基礎がどういうところにあるのか。高橋先生の方からは、最低限守ってもらうルールだというふうなお話がございましたけれども、まさにそういうものなのかなというふうに思っております。その意味では、やはり非常に、なかなかゆるがせにしにくい原則ではあろう。ただ、本当に全く例外を許容する余地がないのかといえば、そうではないだろう。今日はそんな趣旨でお話をさせていただいたところでございます。
○赤嶺委員 これはお二人の先生に聞く時間をいただきたいんですが、昨年の、衆議院の国交委員会で、地方視察に代えて、オンラインを活用して、災害自治体から実情を聞いた事例があります。そういうオンラインの活用を大いに推進することに、これは異論はないと思います。
一方、本会議へのオンライン出席、表決について、様々な意見がある中で、そもそも立法事実はあるのか。この点について両先生にお聞きしたいと思います。
○森会長 質疑時間が終了しておりますので、簡潔にお願いいたします。
○高橋参考人 ちょっと質問の意味が理解できなかったんですが、地方のことをお聞きになったんですか。それとも本会議の……(赤嶺委員「本会議のことです」と呼ぶ)
本会議について例外を認める、その立法事実があるかどうかということでありますけれども、ずっとお話ししてきましたように、私は立法事実がないと考えております。
○只野参考人 先ほど申しましたような、例外として考えられる事由、これはやはり考慮されるべき点があるのかなというふうに思います。全体として支障はないではないか、こういう議論はあるかもしれませんが、実際に議事や議決に参加できない議員の先生方、いらっしゃるんじゃないかなと。そういう範囲で、慎重な見極めをした上で御判断いただければというふうに考えているところでございます。