沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐり、海上工事への着手後、絶滅危惧種ジュゴンの姿が周辺海域で確認できなくなったことと工事との因果関係を否定する防衛省の見解に、同省が設置した環境監視等委員会の複数の委員から疑問を呈する意見が出されていたことが分かりました。
19日の衆院安全保障委員会で、日本共産党の赤嶺政賢議員が同委員会議事録を示して政府の姿勢をただしました。
防衛省は、ジュゴンが確認されなくなった時期の水中音や振動を発する工事がピーク時を上回るものでなかったことを理由に「工事の影響とは考えられない」と説明しています。
これに対し、9月8日の同委員会では、委員の一人が「作業による影響とジュゴンの在・不在の間の関連性について、不確実性があって確証できない」と発言。別の委員は「工事がジュゴンにどう影響を与えるかについては、知見は少ない」と述べています。
防衛省は9月末、工事の影響とは「考えにくい」と修正した報告書を沖縄県に提出しています。
赤嶺氏は「安易に結論を導き出すべきではないというのが委員会の議論の核心だ。防衛省は何を根拠に否定的な見解を示しているのか」と追及しました。
岸信夫防衛相は、因果関係を否定する根拠を示さず「適切に対処する」と述べるだけでした。赤嶺氏は「工事の影響はないという防衛省の結論には大きな疑問がある」と指摘しました。(しんぶん赤旗 2020年11月24日)
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辺野古のジュゴンで国監視委 工事影響否定に疑問(衆院安保委)
議事録
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
辺野古新基地建設とジュゴンの保護について質問をいたします。
沖縄本島の周辺では、辺野古の事業を実施する前には三頭のジュゴンが確認されていました。このうち、個体Cについては二〇一五年六月を最後に、個体Aについては二〇一八年九月を最後に確認できなくなりました。個体Bについては、昨年三月に今帰仁村の漁港で死亡が確認されています。
南西諸島のジュゴンの絶滅が現実味を帯びる極めて深刻な状況にあると思いますが、大臣はその点をどのように認識しておられますか。
○岸国務大臣 ジュゴンは、環境省のレッドリストにおいて平成十九年から、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種、いわゆる絶滅危惧の1A類に指定されているものと承知しております。
普天間飛行場代替施設建設事業では、平成十九年から、約五年間の環境影響評価手続を行っております。その中で、沖縄島沿岸のジュゴンの生息状況を調査した上で、ジュゴンについて特に配慮して、環境への影響の予測、評価を行っているところでございます。
この予測、評価を踏まえて、本事業の実施に当たっては、部外の専門家から成る環境監視等委員会の指導助言を得ながら、ジュゴンの生息状況の把握や工事海域へのジュゴンの来遊の監視に努めているなど、これまでもジュゴンへの影響について適切に配慮して工事を進めているところでございます。
引き続き、適切に対処をしてまいりたいと思います。
○赤嶺委員 絶滅が危惧される極めて深刻な状況ではありますが、ことし二月以降、大浦湾の施行区域内で、ジュゴンの可能性が高いとされる鳴音、鳴き声が継続的に検出されています。一縷の望みをかけて、その動きを見守ってきた方もたくさんいらっしゃると思います。
これまでの検出状況、そしてジュゴンの鳴音、鳴き声かどうかの特定には至ったんですか。その点を明らかにしていただけますか。
○土本政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘の点でございますが、本年二月以降、施行区域内のK4地点及びK5地点に設置した水中録音装置からジュゴンの鳴音である可能性が高い音が検出されているというのは、まさに御指摘のとおりでございます。
具体的には、K4地点におきまして、二月に三日、三月に五日、四月に七日、五月に十日、八月に一日、検出されております。また、K5地点におきましては、六月に一日、検出されております。
そして、これら全ての音につきまして、経験豊富な調査会社による識別に加え、海洋生物の専門家から、個体の識別はできないものの、ジュゴンの鳴音の可能性が高いとの意見を得たところでございます。
他方、これまで古宇利島や嘉陽沖でジュゴンの鳴音である可能性が高い音が検出された際には、いずれもその前後にジュゴンの姿やはみ跡などの痕跡が確認されてきましたが、本年二月以降に検出されたものにつきましては、頻度をふやしまして範囲を拡大するなどしながら各種調査を行っているにもかかわらず、姿やはみ跡などの痕跡は確認されておりません。
このような状況を踏まえまして、本年七月に開催されました第二十七回環境監視等委員会におきまして、人工物の影響を含めて検証するべきとの指導助言をいただいたことから、その後の環境監視等委員会におきまして、引き続きジュゴンの生息状況や大浦湾のはみ跡の状況を把握するための調査を継続するとともに、並行して、人工物の影響も念頭に置いた発生源の状況の確認も実施することといたしております。
その上で、ジュゴンが大浦湾内に来遊することは過去にも確認されておりまして、環境保全図書におきまして予測の前提にもなっていることから、今般検出された音がジュゴンの鳴音であると特定されていなくても、引き続き環境保全図書に基づきまして環境保全措置を講じることで、ジュゴンへの影響を適切に考慮できると考えております。
さらに、今般のジュゴンの鳴音の可能性が高い音の検出を受けまして、環境監視等委員会におきまして、ジュゴンの生息状況調査の範囲を拡大するとともに、警戒監視を強化しつつ、現在の環境保全措置を継続していくことにつきまして了承をいただいているところでございます。
○赤嶺委員 長い答弁でしたけれども、ジュゴンかどうかの特定への努力が足りない。この半年、同じような説明を聞かされてきました。
防衛省はこれまで、ジュゴンに関する調査は、実績豊富な専門コンサルタントが実施し、海洋生物の専門家からも助言をもらっていると説明しております。海洋生物の専門家というのはどなたですか。
○土本政府参考人 お答え申し上げます。
専門家からの助言につきましては、大変恐縮でございますが、氏名等を非公表にすることを条件に当該助言を得ているため、氏名等を開示することは困難であることを御理解いただきたいと思います。
○赤嶺委員 専門家の名前は言えないと。
それで、皆さんがいつも意見を聞いています環境監視等委員会の委員の皆さんに、この鳴音が録音された音声データは聞いてもらったんですか。
○土本政府参考人 お答え申し上げます。
普天間飛行場代替施設建設事業におきましては、適切な環境保全措置を実施する前提といたしまして、ジュゴンの生息状況を把握するために、航空機や水中録音装置などを用いたジュゴンの生息状況の調査を行っておりまして、その調査結果につきまして環境監視等委員会に報告しております。
このうち、水中録音装置による調査につきましては、受託業者が録音データを分析し、周波数や持続時間など音響特性も考慮してジュゴンの鳴音の識別を行い、必要に応じて専門家の意見も確認した上で、整理した結果を沖縄防衛局が提出を受け、これに基づいて環境監視等委員会に報告しているところでございまして、録音データそのものは環境監視等委員会に示しておりません。
環境監視等委員会では、これまでも、航空機や水中録音装置などを用いた調査の結果としてジュゴンの行動範囲や行動生態などの知見を総合的に考慮しながら分析、検討し、ジュゴンの生息状況を確認していただいているものと承知しております。
以上でございます。
○赤嶺委員 音声データについて、環境監視等委員の皆さんからは聞かせてほしいという要望は出ていないんですか。
○岸国務大臣 これまで、環境監視等委員会から録音データの提出は求められておりません。
環境監視等委員会では、これまでも、航空機や水中録音装置などを用いた調査の結果とジュゴンの行動範囲や行動生態などの知見を総合的に考慮しながら分析、検討しており、ジュゴンの生息状況を確認していただいているものと承知をしております。
○赤嶺委員 防衛大臣にこの機会にお願いしておきたいんですけれども、この音声データについては、立憲民主党の近藤昭一議員が会長を務めておられる沖縄等米軍基地問題議員懇談会、ずっと会合を重ねておりますが、その中で繰り返し提出を求めてきました。国際的にも関心が高く、内外の専門家から提供を求める強い要望が出されておりますが、提出に至っておりません。
大事なことは、ジュゴンが存在するかどうか、まず事実を特定することです。防衛省において特定に至っていないというわけですから、広く専門家の知恵と協力を求めていく必要があると思います。協力したいという専門家の方はたくさんいらっしゃいます。
既にあるもの、音声データ、これを提出するだけのことですから、新たに予算がかかるわけでもありません。拒む理由はないはずです。音声データの提出をぜひ御検討いただきたい。大臣、いかがですか。
○岸国務大臣 沖縄防衛局は、受託業者から録音データの識別を終えて整理した結果の提出を受けておりますが、当該業務の契約において、録音データの提出を受けることにはなっておらず、沖縄防衛局が保管するものではないために、録音データを提出することは考えていないところでございます。
○赤嶺委員 いえいえ、大臣、違いますよ。ちゃんとチェックしてください。音声データの提供を受ける契約にはなっていないと。ところが、契約関係書類を見ますと、防衛省が途中段階までの成果物の提出を求めた場合には受注者はその指示に従う、このように明記されているわけですよ。防衛省が求めさえすれば提出はできるはずであります。
環境に配慮しているということを、言葉だけでなくぜひ行動で示していただきたいということを、大臣、強く要望いたします。契約書で皆さんが求めれば提出できるんですよ。それをやはり大臣の決意で出すように、ちゃんと指示していただくようにお願いをしたいと思います。
次に、ジュゴンの姿が確認されなくなったことと工事との因果関係についてでありますが、これまで防衛省は、ジュゴンが確認されなくなった時期は、水中音や振動を発する工事がピークのときほどではなかったことを理由に、工事の影響とは考えられないと説明してきました。ところが、九月八日の環境監視等委員会では、この説明に疑問を呈する発言が相次ぎました。
防衛省が公表した議事録によりますと、委員の一人は、作業による影響とジュゴンの在、不在の間の関連性について、不確実性があって確証はできないと述べております。別の委員は、工事がジュゴンにどう影響を与えるかについては知見は少ないというのが現状である、このように述べております。さらに、別の委員は、余りこの中に考察のようなことを書くと事実関係を正しく言い切れないとして、防衛省が評価を述べた部分を割愛するよう、このように提案しています。
これらの意見は工事の影響を否定する防衛省の見解と矛盾する内容になっていると思いますが、大臣、そういう認識はございますか。
○土本政府参考人 お答え申し上げます。
今委員御指摘の環境監視等委員会における委員の発言につきましては、工事中の環境の実態を把握するための事後調査に関する令和元年度の報告書の案を御説明した際に、形式的な記載ぶりにつきまして、事実関係といわゆる評価、考察が同一の文書内に記載されていることから、より正確な表現となるように、これを区別すべきとの趣旨でいただいたものと承知しております。
御指摘の発言は、環境監視等委員会の委員がジュゴンに対する具体的な工事の影響を認めているものではなく、実際、委員の指導助言内容を反映し、委員の確認を得て提出した報告書におきましては、工事がジュゴンに影響を及ぼしたとは考えにくいとの評価を記載しているところでございます。
○赤嶺委員 複数の委員から出された意見というのは、因果関係については、工事が影響があると言ったとは別に言っていないんですよ、私も。不確実性がある、このように言っているわけです。あるいは、そもそもジュゴンに関する知見が少ない、こう言っているわけです。要するに、ジュゴンのことはまだよくわからないのだから、安易に工事の影響はないなどと結論を導き出すべきではない、これが議論の核心部分であったわけです。
それで、今回公表された報告書を見ると、工事の影響とは考えられないとしてきた今までの表現を、考えにくいという表現にトーンダウンさせてはいますけれども、引き続き否定的な見解を示しているわけです。結論を導き出すこと自体ができないと言っているのに、何を根拠に否定的な見解を示し続けているんですか。これは大臣にお願いします。
○土本政府参考人 お答え申し上げます。
令和元年度事後調査報告書第九章のジュゴンの総合的な評価につきましては、先ほど申し上げましたように、事実と評価、考察を書き分ける観点から修正を行ったものでございます。
その結果、令和元年度も、平成三十年度から継続工事を実施していることから、ジュゴンが定常的に確認されていた時期を上回る影響があったとは言えないと考えているとの当初の表現は、まず、事実の記載といたしまして、令和元年度は、傾斜堤護岸の工事において基礎捨石投入や消波ブロックの設置を行いましたが、上記ピーク時の施工量を上回るものではありませんでしたといたしました。
その上で、評価、考察の記載といたしまして、以上のことから、少なくとも、令和元年度に実施した工事がジュゴンに影響を及ぼしたとは考えにくいとの表現に修正をいたしました。
この修正につきましては、本年九月八日の第二十八回環境監視委員会の終了後、委員長や御意見をいただいた委員等に修正案を御確認いただいた後、同年九月三十日に沖縄県に事後調査報告書を提出いたしておるところでございます。
○赤嶺委員 大臣にも伺いますけれども、ただ、今の事務方の説明はおかしいですよ。今までもこういう説明をしてきたわけですよ。環境監視等委員会でその説明に異議が出てきたわけです。ピーク時の施工量を上回る工事をしていなかったからといって、それを根拠に結論を導き出すことはできないだろう、これが委員の皆さんから出た今回の意見の核心部分ですよ。それを覆すような新たな根拠を示すことができないと思いますよ。
今までは、工事の影響とは考えられない、こういう表現を、考えにくいという表現に変えたのはなぜですか。その違いも説明してくれますか。
○岸国務大臣 委員の御指摘の点ですが、いずれにいたしましても、環境監視等委員会では、これまでも、航空機や水中録音装置などを用いた調査の結果とジュゴンの行動範囲や行動生態などの知見を総合的に考慮しながら分析、検討をいたしまして、ジュゴンの生息状況を確認していただいているものと承知をしているところでございます。
本事業の実施に当たっては、これまでもジュゴンの影響について適切に配慮して工事を進めてきたところでございますが、引き続いて、環境監視等委員会の指導助言をいただきながら、適切に対応してまいりたいと考えております。
○赤嶺委員 今までの工事の影響はあるかないか、さんざん議論になって、工事の影響は考えられない、ジュゴンがいなくなったことと関連は考えられないと。ところが、環境監視等委員会の中で専門家の人たちのいろいろな意見が出て、表現が、考えにくいという言葉に変わりました。その違いは何かということを聞いたんですが、お答えはありませんでした。
しかし、環境監視等委員会の議論の経過から見ても、皆さんがジュゴンがいなくなったことと工事の影響はないんだという結論の間には大きな疑問と乖離があるということを指摘して、質問を終わりたいと思います。