衆院憲法審査会は4月20日、地方自治について参考人質疑を行いました。
沖縄大学の小林武客員教授は、地方自治に関する改憲は必要なく、「(憲法を)完全に実現する方策こそ政治に求められている」と強調。住民自治や人権の保障は「立憲主義の根本的立脚点だ」と陳述しました。
小林氏は、地方自治を極端にゆがめているものの一つに、国による沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設の強行を挙げ、「(新基地反対の)民意を一顧だにしようとしないことは、地方自治をないがしろにするものだ」と批判。「防衛問題は国の専管事項という議論」について、「外交防衛に関しても地方自治体は、大いに発言することができ、またしなければならない。さらに進んで、政治決定に参加・参与しなければならない」と述べました。
明治大学の大津浩教授は、「自民党改憲案」が地方自治の本旨を縮減させるとし、「世界の地方自治原理の発展に日本が先進的な寄与をすることに真っ向から反するので反対だ」と述べました。
日本共産党の赤嶺政賢議員は、憲法・地方自治の観点から辺野古新基地建設の強行をどうみるかと質問。小林氏は「日米安保条約と日米地位協定が沖縄の自治をゆがめている。県民の権利、人間の尊厳を守るという(憲法の)適用から排除されている」と指摘しました。東京大学の斎藤誠教授は、「国と沖縄県に対話を呼びかけた国・地方係争処理委員会の意見も一つの見識」だとして、「訴訟ですべてが解決するのではなく、政治の場で協議や対話を積み重ねることが重要だ」と語りました。(しんぶん赤旗 2017年4月21日)
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議事録
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
きょうは、参考人の先生方、大変お忙しい中、貴重な御意見をいただき、本当に感謝申し上げます。
そこで、質問に移らせていただきますが、私は、この憲法審査会の中で、沖縄に憲法はないのかということをいろいろな角度から問い続けてまいりました。その沖縄と憲法と地方自治の問題について、やはり一番最大の中心問題は、沖縄県の民意が、知事選挙や国政選挙や首長選挙、地元名護市の市長選挙で明確に示されているにもかかわらず、それが一顧だにされない、小林先生のお話にもありましたが、そこに尽きると思うんですね。
それで、四人の参考人の先生方に、先生方の御意見で結構ですから、沖縄の民意と政府の政策の対立状況、それを憲法や地方自治の角度で見たときに、どんなふうに考えておられるのか。大津先生の方から、順序よくお答え願えたらと思います。よろしくお願いします。
○大津参考人 沖縄のことは、私も常に、地方自治の中でもとりわけ重大な問題だと考えているところなんですけれども、やはり、例えば辺野古の問題等々をとりましても、日本の国全体の中での取り扱いであるとすると、前の仲井真知事が一度承認したものを、今の知事が処分を取り消すというようなやり方の場合には、よほど明確な違法な状況でも証明できない限り、一度行政で決定したものは取り消せないわけですよね。そういう点で負けているということがございます。
私は、沖縄につきましては、その歴史的な状況も、それから、ずっと米軍基地等が集中的に置かれている状況からいっても、日本の他の地域とは違う取り扱いをするべきではないかと考えているところがございます。そのために、例えば憲法改正をやって、沖縄だけ、それこそ、準連邦制のように別の存在にしてしまう。その分、権限も与えるというやり方も一つあるかとは思うんですが、私は、そこまで行く前に、イギリスのスコットランドの分権のようなやり方をとったらいかがかと思っております。
長くはしゃべれなくて申しわけないんですが、御存じのように、イギリスでは、スコットランドの自治を認めるために、イギリスの国会が包括的に、この分野は丸ごとスコットランド議会に移譲すると決める法律をつくっているわけなんですね。したがいまして、それに触れる立法は、もちろん、イギリスは国会主権ですから法律を変えればできるわけなんですが、イギリスは、政治的な力関係からいって、一度分権したものはできないと。これはデボリューションですね。
私は、沖縄に、包括的に幅広い権限を自主的に決めるものを本土とは別格のレベルで与えるような、包括的な立法権を付することをお勧めするんですが、そのときに、憲法九十五条を使ったらいかがかと思っているわけです。沖縄を特定して、沖縄にのみ特別に認められる権限の移譲を包括的にやる。これは、住民の投票が必要になるわけですね。
一旦そのようにして、地方特別法で、特別な制度、権限を沖縄に与えた場合に、国会がそれを、別の新しい法律をつくって掘り崩すということはできるのか。私の憲法解釈では、憲法九十五条によって一旦特別なそういう制度や権限を与えたものについては、やはり憲法九十五条の手続にのっとって、もう一度住民投票でその改正が許されない限りはできないと。これぐらい沖縄に特別な権限と制度を与えることを通じて、沖縄の自治が特別に守られるんじゃないか、こう思っております。
○小林参考人 どうも御質問ありがとうございます。
先ほどの発言の中で、かなり沖縄に関して、国と地方のあり方、それが大変いびつなものになっているということを申し上げました。ほぼそこでお話をしたことで申し上げようとしたことの趣旨はそこにあるわけですけれども、なおそれに加えますと、やはり沖縄の場合に、自治体の首長ですね、特に県知事ですけれども、県知事の果たす役割というのは非常に大きいという気がいたします。
私は、沖縄には本土の方から移った、そういう立場なんですけれども、ですから、沖縄に行きまして特にそのことを強く感じます。
今は翁長雄志さんという方ですが、この知事への県民の信任は非常に厚いと思います。これは客観的に言って、公平に言ってそうだと思います。それはなぜか。一言で、公約を守るからです。公約を守る、つまり、県民の意思を大切にして変えないという、このことについての県民の信頼ですね。保守的な土壌から政治家になられた方だ、そういうふうに伺っておりますが、そのこととは別に、多くの人々が首長を信頼しているという、そういう状況ですね。このことは、地方自治のあり方についても、これから考えるときに非常に示唆的だと思います。
県民自身、知事に任せているということではなくて、先ほどは時間の関係で申し上げなかったですけれども、辺野古の新基地に抵抗している市民、これは県民だけではありませんけれども、市民の抵抗行動というのは実は千日を超えているわけですね。先ほどちょっと触れました政府のいろいろないわば強い圧力の中でも、千日を超える、そういう抵抗行動がなされていて、そういう民意を基盤にして翁長さんはその民意を少しも変えないという立場を守り抜いている、こういうことがあります。
それからもう一つは、これは発言の中でも触れましたけれども、やはり安保条約に基づく米軍基地というものが沖縄では非常に特殊な状況で偏在しているという特殊な状況であらわれていて、安保条約とそれに基づく日米地位協定が沖縄の地方自治をゆがめているということは、きょうの国、地方関係を考えるこの会議でも重要視しなければならないと思います。
つまり、沖縄においては、日本の法令が適用されて、日本の法令によって沖縄県の県民の権利また人間の尊厳を守らなければならないという課題があるにもかかわらず、この適用が排除されている。したがって、それにかえて地方、つまり、県や基礎自治体が条例をつくって、この条例に基づいて沖縄県民また沖縄住民の権利を守っていくという住民保護条例の必要が出ている。そういうふうな、国、地方を考えるときに格別の問題が沖縄では生じているということへの御留意をお願いしたいという気がいたします。
○齋藤参考人 どうもありがとうございます。
私の先ほどの意見陳述に即して少しお答えしますと、現在の訴訟制度でいいますと、沖縄のそういう基地が非常に沖縄に偏っているという状況を、例えば地方自治の侵害だ、そういうふうにるる沖縄の側で主張される。それは、今回の訴訟だけじゃなくて、平成八年の署名等代行訴訟でもそういう主張があったわけですが、それには裁判所はほとんど答えないんですよね。詳しい説示をしない。それを変えていくためには、やはり憲法上の地方自治保障の条項を充実していくというのが一つの方策ではないかと考えます。
ただ、他方で、そういう裁判制度でもって事がどんどん解決していくかというと、これは、現在の国の関与に関する訴訟は従来の職務執行命令訴訟というのを引きずっている面があります。職務執行命令訴訟はアメリカ、GHQが主導でつくられたというのが通説的見解ですけれども、そこでは、それをつくって、あるいはつくった後、GHQの中でも、そういうことは全部訴訟で扱うべきなのか、むしろそれは裁判所の専制を招くんじゃないかとか、それはむしろ政治的な問題じゃないかという議論がなされておりました。
そういったことも勘案しますと、訴訟で全てが解決するというのではなくて、やはり政治の場で協議や対話を積み重ねるということが重要だと私も考えます。その意味では、この間に出された国地方係争処理委員会の意見、勧告をせずに国、沖縄に対して協議、対話を呼びかけるという国地方係争処理委員会のあの意見というのも一つの見識ではあったのではないかと思う次第です。
○佐々木参考人 ありがとうございます。
沖縄の民意と国家の意思のずれというか、基本的には基地問題に集約されているのかなと。
沖縄自身、琉球国の時代から非常にすばらしい文化、伝統を持っておられ、今でも観光で十分発展できる力があるわけですが、やはり私は、沖縄を独立した州にすると。地方主権型道州制の論理でいいますと、沖縄は人口規模、面積は小さいけれども、独立した州として、沖縄のことは沖縄で全て決定できるような仕組みを一旦つくると。現実の問題として、沖縄県知事を、これはお叱りを受けるかもしれませんが、内閣の一員に加える、沖縄担当大臣は沖縄県知事が兼務する、それによって国政において沖縄の意見というものをもう少しストレートに反映するという仕組みを考えてもいいのではないか、こんなふうに思います。
以上です。
○赤嶺委員 ありがとうございました。
いろいろ、私と意見の違うところもありますけれども、また参考にして、これからも議論を続けていきたいと思うんです。
ただ、一つ、齋藤参考人がおっしゃいました、国と地方の関係をちゃんと整理していく場合に、国地方係争処理委員会がこの間出した結論というんでしょうか、こういうのは裁判や国の権限によって決まるものでないし、国と地方がもっときちんと話し合うべきことだという、この点についてはやはりとても大事なことだったんじゃないか。とても大事なことが、そのまま是正の指示の裁判になっていくということを大変残念に思っております。
大津参考人に伺いたいんですけれども、大津先生の「「便乗改憲」と地方自治」という論文の中で、国と自治体の立法意思間の対話を認め、両者の競合性を保障しているのが憲法九十二条の地方自治の本旨であると指摘されて、人権保障の充実と民主主義の深化の視点を踏まえた地方自治保障のあり方について示しておられます。
憲法が地方自治の本旨を保障しているにもかかわらず地方自治が理念どおりに実現していない、この点について、大変短い時間しか残っておりませんが、御意見を聞かせていただければと思います。
○大津参考人 地方自治がなかなか実際には今おっしゃられたような方向で保障されないということの説明としては、二つの方向からなされていますね。
一つは、憲法上の規定が足りないからだ、したがいまして、憲法でそこをもっと規律しなければだめだ、こういう議論があるかと思います。
他方で、憲法上の規定云々ではなくて、それを運用する側、とりわけ国会でいえば、国会でその法解釈をつかさどる内閣法制局や各省庁のそういう法制担当の方々、あるいは最高裁判所の裁判官といった方々が、やはり、地方自治に、あるいは立法権分有にまで進むような地方自治のあり方を憲法の九十二条が本来定めているんだという意識がいまだに足りない、こういう説明の仕方もあり得ると思うわけです。
私は、この後者の方の立場から、できるだけ、もっと豊かな地方自治を憲法は保障しているんですよという主張をしているところなんですけれども、先ほど御紹介いただいた便乗改憲の問題でいきますと、あそこで私が取り上げたのは、先ほど齋藤参考人も言及されました徳島県知事、元総務省の官僚だった人なわけですけれども、彼が、もっと現行法の枠内でも自治体は自由にできるだろうと思って、彼は恐らく神奈川県税条例にかかわったと思われるんですけれども、それを最高裁が違法判決を出してしまっている、これはもうどうにもならないというところから、日本の地方自治の本旨、憲法九十二条はほとんど役に立たない、だから憲法改正するべきだと言ってしまったんですね。
私は、憲法九十二条の地方自治の本旨というものは、さっき述べたように、本来、立法権分有の趣旨があるんだということを明確にすれば、そこから後は、解釈をより豊かにするか、そっちの方向で憲法改正するかはそれぞれの状況によりますけれども、現在の憲法九十二条は、それを使っては地方自治を守れないんだと言ってしまったところが便乗改憲になる、こう思っている次第でございます。
○赤嶺委員 終わります。