国会質問

質問日:2007年 4月 11日  第166国会  文部科学委員会

2007年4月11日 第166国会 衆議院文部科学委員会

議事録

○赤嶺委員

 日本共産党の赤嶺政賢でございます。

 きょうは、文部科学委員会のお許しを得まして、当委員会で質問をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

 私は、最初に、文部科学大臣に、沖縄戦の認識について聞きたいと思います。

 私は、戦後すぐの沖縄の生まれであります。沖縄戦の犠牲者を周囲にいながら育ちました。私が父親の畑仕事を手伝えるようになった時代でも、私のその畑仕事の役割というのは、畑に、石ころにまざって人間の骨が粉々になって散らばっている、それを石ころと一緒に拾い集めて畑の隅に積み上げる、こういうのが私の役割でありました。終戦直後の沖縄では、芋や根菜類が大変大きく実った。何で大きく実ったかというと、戦死した人間の養分を吸って、そして大きくなっているんだという話もよく聞かされました。今でも、石垣に火炎放射器の跡や弾痕が残っている地域が見受けられます。

 まさに沖縄戦というのは、日本で唯一、住民を巻き込んだ地上戦であったわけですが、文科大臣は、沖縄戦についてどういう認識を持っておられますか。

 

○伊吹国務大臣

 沖縄での、第二次世界大戦というか太平洋戦争末期のあの戦争を、沖縄でやるまでに戦争をとめた方がよかったかどうかということについては、当時の指導者の判断でございますから、後で私から言わせれば、それは、なぜもっと早く手を打たなかったんだろうかなと思います。

 しかし、先生も含めて我々は、主権者から負託された意思決定の場にいる者として、我々も今ここで何か決めるときは、必ず後世の批判等、言えば、後世の裁判所に引き出される被告になる立場があるんだということを常々自戒しながら、物事に賛成、反対ということを決めていかなければならないと私は思っています。

 それよりも、私は、単に沖縄での戦争というだけではなくて、沖縄の今までたどってこられた歴史を考えますと、まず、日本軍によって自分たちの私有地を基地として強制的に徴用されてしまわれたわけでしょう。そして、戦争が終わってほっとされた後、今度は米軍の統治下において、それをそのまま軍事施設として引き継がれて、そしてまた、今、ありていに言えば、私は、日米安保条約というものがあるがゆえに日本は今日の平和を維持できていると思いますが、そのコストをほとんど沖縄の皆さんが担っておられるということ、そして、その原点が、先生がおっしゃった、沖縄というところで地上戦が行われて、大勢の方々の命が失われたということについて、私どもは戦争の体験はほとんどありませんけれども、沖縄という土地、沖縄の県民に対して常に贖罪意識を私は持っていなければならないと思っております。

 

○赤嶺委員

 大臣のお考えを今伺ったわけですが、ところで、文部科学省は三月の三十日に、二〇〇八年度から使用される高校教科書、主に二年生、三年生用ですが、その検定結果を公表しております。それによりますと、日本史のA、Bでは、沖縄戦の集団自決について、日本軍が強制したとの記述七カ所に検定意見がついております。

 具体的に、どういう記述に対して、どういう検定意見をつけたんですか。

 

○銭谷政府参考人

 平成十八年度の検定におきまして、教科用図書検定調査審議会の議に基づきまして、七点の教科書につきまして検定意見を付したところでございます。

 表現といたしましては、日本軍によって集団自決に追い込まれた住民もあった、あるいは、日本軍に集団で自決を強いられたものもあった、あるいは、日本軍に集団自決を強いられたといった申請図書の記述に対しまして、沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現であるという検定意見をつけたところでございます。

○赤嶺委員

 日本軍によって集団自決に追い込まれたものもあった、そういう記述が、沖縄戦の実態について、何で誤解するおそれのある表現になるんですか。これはどういうことですか。

 

○銭谷政府参考人

 教科書の検定につきましては、専門家による教科用図書検定調査審議会の答申に基づいて行っているところでございます。教科用図書検定調査審議会の専門的な調査審議におきまして、先ほど申し上げました記述につきましては、教科書の記述としては、軍の命令の有無について断定的な記述を避けることが適当である、こう判断をして、意見を付したものと理解をいたしております。

 

○赤嶺委員

 何で断定的な記述を避ける必要があるんですか。

 

○銭谷政府参考人

 先ほど来申し上げておりますように、教科書検定におきましては、教科書の記述につきまして、専門的な観点から調査審議を行って、検定意見を付しているところでございます。

 ちょっと、事務官である私が申し上げるのもいかがかと思いますけれども、従来、この集団自決が、日本軍の隊長が住民に対して集団自決命令を出したとされて、これが通説として取り扱われてきたわけでございますけれども、この通説について、当時の関係者からいろいろな証言、意見が出ているという状況を踏まえまして、今回の教科用図書検定調査審議会の意見は、現時点では軍の命令の有無についてはいずれとも断定できないという趣旨で付されたものと受けとめておりまして、日本軍の関与等を否定するものではないというふうに考えております。

 

○赤嶺委員

 当時の関係者から意見や証言が出ているというのはどういうことですか。

 

○銭谷政府参考人

 沖縄戦につきまして、最近の著書等におきまして、軍の命令の有無が明確ではないというような記述でございますとか、あるいは、当時の関係者が訴訟を提起しているといったような状況がございまして、現時点では軍の命令の有無についてはいずれとも断定できないということから、教科用図書検定調査審議会ではそのような意見を付したものでございます。

 

○赤嶺委員

 従来の諸説があったけれども、新しい著書も出ている。それは何ですか。

 それから、訴訟が起きていると言いましたけれども、それはどういう訴訟ですか。

 

○銭谷政府参考人

 沖縄戦につきましてはいろいろな研究や著書があるわけでございますけれども、その中に、軍の命令の有無は明確ではないというふうな著書もあるわけでございます。

 それから、訴訟につきましては、平成十七年の八月に、当時の日本軍の隊長等から、軍の隊長の命令があったということは事実ではないとして訴訟が提起をされていると承知をいたしております。

 

○赤嶺委員

 著書についてもう一度確認いたしますが、三月三十一日付のマスコミの報道を見ますと、文科省は、教科書各社の申請本を調査する上で参考とした主な書籍などの一覧を公表したということで、参考にした具体的な著書名を列挙しておりますが、これは文科省が公表したものですね。

 

○銭谷政府参考人

 私どもが平成十八年度の教科書の検定状況につきまして記者発表をした際に、文部科学省の記者クラブの方からの要請を受けまして、集団自決にかかわる記述のある主な著作物として審議会等で参考等に供された著作物を提供してほしい、名称を提供してほしいというお話がございましたので、教科用図書検定調査審議会の事務局を務めております教科書課において、その主な著作物の例を作成いたしまして、提供をしたものでございます。

 

○赤嶺委員

 その著作物の一覧表を詳しく見てみたんですが、沖縄戦というのは、一九八〇年代の教科書検定の後、教科書検定をめぐる裁判が起こり、沖縄戦が裁判で検証されて、十数年、一九九七年まで、最高裁の判決が出るまでかかったんですが、そこで論じられたものが大体沖縄戦の定説になった専門書でした。皆さんが参考にした図書というのは、それ以後出た新しいものというのはほとんどありませんよ。どういうのがあるんですか。

 

○銭谷政府参考人

 これは、まずお断りを申し上げておきたいのでございますけれども、教科書の検定は、教科用図書検定調査審議会の審議に基づきまして実施をしているものでございます。教科用図書検定調査審議会は、専門家の方が学術的な観点等を踏まえまして、公平中立に、学説状況や、最近のさまざまなその事案をめぐる状況について審議をして意見を付する、そういう性格の審議会でございます。

 その審議会におきまして、沖縄戦における集団自決にかかわる著作物としていろいろと取り上げ、あるいは検討した著作物につきまして、私どもの事務方として情報提供したものでございます。

 もちろん、それぞれの著作物につきましては、古いものでは昭和二十五年の八月発行のものもございますし、平成に入りましてから、平成十二年、あるいは十三年、十四年といった年に発行されたものもあるわけでございます。

 

○赤嶺委員

 ほとんど戦後積み重ねてきたもので、諸説の根拠になった問題について、ちょっと後でも触れますが、ただ、専門家が検討したといっても、審査会の議論を経て、最終的な決定権限は文科大臣にあるわけですから、これは文部科学省がきちんと国会に説明してもらわなければ困ると思います。

 そこで、さっき出ていました裁判の問題なんですけれども、訴訟が起きているということなんですが、この訴訟というのは今どういう展開になっているんですか。

 

○銭谷政府参考人

 ただいま先生がお話ございました訴訟については、承知をしている範囲で申し上げますと、平成十七年の八月に訴訟が提起をされまして、現在なお係属中であるというふうに承知をいたしております。

 

○赤嶺委員

 この訴訟を、隊長命令と言われている梅沢隊長本人が起こしている訴訟ですが、冤罪訴訟と名づけています。皆さんが出した資料の一覧表にも、冤罪訴訟ということで、原告の側の立場に立った文言が使われておりますが、これはそのとおりですか。

 

○銭谷政府参考人

 担当課におきまして記者クラブの方に提供いたしました資料におきましては、沖縄集団自決冤罪訴訟という名称を記した資料を提出しているところでございます。

 ただ、これは、原告の方がそのように使用している文言でございまして、裁判でございますから、被告の方は別の呼び方でこの訴訟を呼んでいるということもございますので、私どもとしては、こういう名称で資料を提供したということについては、やはり慎重であるべきであったというふうに思っております。

 

○赤嶺委員

 慎重であるべきであったと言いながら、皆さんが出した資料が一瞬のうちに全国に広がったわけですね。冤罪だというような雰囲気がつくられたわけですよ。

 ところが、この訴訟というのは、事実認定も証人尋問もこれからという段階ですよ。まだ原告が証言に立っているわけでもない。どちらが正しいというようなものが確定するはずもない。それを、一方の側の立場の訴訟の名称を使ったというのは、これは、そういうことが教科書検定にも影響した、いわば原告の側の意見が今度の教科書検定に影響したということになるんじゃないですか。

 公平やバランスという、教科書検定の基準から見ても重大な問題を含んでいると思いますが、文科大臣、いかがですか。

 

○伊吹国務大臣

 まず、先生、私は、法律上の検定権者に文部科学大臣としてなっておりますが、政党人として一番気をつけなければならないことは、議院内閣制で現在の日本の統治は行われているんですよ。ですから、政権をとった者の、政権政党、私は自由民主党でございますが、政権政党の価値観あるいは歴史観、あるいはまた文部科学大臣の政治理念で、検定権者であるから教科書の内容が左右されるということはあってはならないんです。

 だから、少し長くなりますが、家永裁判でどういうことが言われているかというと、教育の中立公正、一定水準の確保等の高度の公益目的のため行われるものであり、学術的、専門的、教育的な専門技術的判断を行うために、専門家である教育職員、学識経験者等を委員とする教科用図書検定審議会を設置する、そして、文部科学大臣の合否の決定は同審議会の答申に基づいて行われる。

 私の主観を入れるべきではない、議院内閣制のもとで、安倍内閣の主観を入れるべきではないということを常に自戒してやっているわけですから、本来、私がここで答弁をするほど怖い国であったら、日本はえらいことになるんですよ。逆に言うと、唯物史観の政党が政権をとったときに、その基準で教科書がみんな認定されたらえらいことになる。だからこそ私は、公正に、一言の言葉も挟んでいないんですよ、このことについて。

 ですから、先ほど先生が御指摘になったように、冤罪という言葉を使って出したなんてことも、報告も受けていません。後で私はそれを知りました。公平にやるためには、これは公表の仕方としては、委員の先生方にどういう資料を出したかは別として、クラブへの公表の仕方としては、これだけの、この項目だけで資料を出すというのは、やはり先ほど参考人が申したように極めて不適切だということは、私は、先生がおっしゃるとおりだと思いますよ。

 しかし、文部科学省の役人も、私も、ましてや官邸にいる安倍総理も、このことについては一言の容喙もできない仕組みで日本の教科書の検定というのは行われているんです。ですから、学者が、事実関係が正しいか正しくないか、一方に偏った表現になっているかなっていないかということの検定をして、私は言葉を挟まずにそれを受け入れているという立場だけなんです。そのことは、先生、よく御理解をいただきたいと思います。

 

○赤嶺委員

 その冤罪訴訟と名づけている方々のホームページを見たら、そこに弁護団として与党の議員の方々の名前もあるんですよ。そんなことを言ったら、今、私はかかわっていませんと言っても、そして文部科学省がああいう資料、一覧表を出したら、こういう誤解を受けるのは当然じゃないですか、これは。関係ありません、官邸も関係ありませんというのは、この問題では、これは言いわけできないような問題を引き起こしているということを指摘しておきたいと思うんですよ。

 それで、私は、沖縄戦というのは、今回の検定が問題にした、そういうところにあったわけではないと思うんですよ。先ほど文科大臣も、沖縄戦について、もっと早く終えることができなかったかというたぐいの議論について、御自分はどう考えているかということを触れられました。

 私たちは、沖縄戦というのは、やはり本土防衛のための捨て石作戦だったんですよ。もう負けることが明らかでした。そして、第三二守備軍が、今の戦力では持ちこたえられないという戦力増強も全部断ってしまいました。これはもう戦史の記録であります。したがって、当時の日本軍沖縄守備第三二軍、一木一草に至るまで戦力化する、根こそぎ動員ですよ。軍人と民間人との区別なしに戦場動員をする。それから、軍、官、民、共生共死の一体化、軍と官と民はともに生き、ともに死ぬという考え方を徹底して押しつけました。当時、沖縄守備の総指揮官である第三二軍司令官の牛島中将は、生きて虜囚の辱めを受くることなく、悠久の大義に生くべし、こういう命令も下していたわけです。

 そういうもとで、各地の現場で具体的な命令があったかどうかという問題ではなく、まず、沖縄戦を見る場合に、追い詰められたら玉砕せよというのが当時の日本軍の方針だったと思いますよ。違いますか。

 

○伊吹国務大臣

 それは、先生、これはいろいろな判断があると思います。だから、今回の教科書の問題はそれとは違うんじゃないんですか、教科書の記述の問題は。

 ですから、いろいろな判断のあるものについては、一方に偏った記述を避けるということが教科書検定の意味合いであって、私は、日本軍の強制があった部分はあるかもわからない、それは当然あったかもわからないと思いますよ。しかし、今回言っているのは、なかったとは言っていないんですよ。日本軍の強制がなかったという記述を書けということは言っていないんですよ。
 一方に偏った記述は判断を誤るから公正に記述をしなさいということを教科書検定調査会は検定をされたので、私は今、先生のお立場に立って、それはだめだよ、あるいは、また別の立場の人の立場に立って、それはそうだ、こうしろ、そんなことを文部科学大臣が言えるほど怖い国だったら、私は、日本の教科書はめちゃめちゃになると思いますよ。

 

○赤嶺委員

 全体として沖縄戦は、追い詰められた県民は玉砕せよという大きな命令があったわけです。これは考え方の問題ではありません。そういう状況だったんです。

 それで、今回、教科書検定というのはどんなことをやったか。さっき、隊長命令があったかどうかの、そういう訴訟も起きていると言いました。教科書で、今回、検定で修正意見をつけたのは、隊長命令があったというようなところではないですよ。表現でいいますと、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民や、集団で自決を強いられたものもあった、こうなっているわけですよ。ところが、検定決定した記述では、集団自決に追い込まれたり、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民もあった。

 虐殺は住民もあったと言うけれども、今大臣がおっしゃるような立場で、否定していないと言うけれども、結局、隊長命令によって追い詰められたというので意見がついているところは一カ所もないですよ。日本軍によって追い詰めれた、集団自決に追い詰められた、そういう集団自決もあったということですからね。これは事実じゃないですか。なかったんですか。

 

○桝屋委員長

 大臣、時間が来ております。簡略にお答えをお願いします。

 

○伊吹国務大臣

 先生、何度も申し上げているように、検定の中身について私がお答えできるほど日本は恐ろしい国じゃないんですよ。そんなことを私がお答えできるということは、検定の内容に私が深くかかわっているということになるんじゃないでしょうか。私は、そんな国であってはいけないと思います。

 

○赤嶺委員

 終わりますが、あれだけ一方的な冤罪裁判を論拠にしたということ、そういう間違いをやった側が真摯に謝罪することなく、権限を持っている文科大臣が、私は権限を持っていない、持っていたら恐ろしいと言って真実を隠すようなことは、県民の立場からは許されないということを指摘して、質問を終わります。

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