米国が、日本の警察庁が持つ指紋データベース情報の提供を迫っています。政府が今国会に提出している、提供するための実施法案は17日に衆院を通過しました。データベースには無罪確定や不起訴になった人も含まれており、法律家などから人権侵害を懸念する声があがっています。(本田祐典)
政府は米国の強い要請で、法案のもとになった「重大犯罪防止対処協定」を2月7日に締結しました。
端末で自動照会
法案では、警察の捜査などで採取された1040万人分もの指紋を米国側の端末で自動照会できるようにします。日本の全人口の8%(12人に1人)に匹敵する指紋が提供されることになります。
照会の方法は2通りで、(1)持ち主が分からない指紋は1040万人分すべてと照会(2)持ち主を特定した指紋は、有罪確定や公判中の被告人、起訴猶予処分などの300万人分に限定して照会―するとしています。
国際刑事立法に詳しい山下幸夫弁護士は、「警察に指紋が残っているだけで、情報が米国に渡されてしまう。プライバシーの一部である指紋の提供自体が、人権侵害といえる」と指摘します。
持ち主を特定した指紋と照会する300万人分には、実際は嫌疑なしや嫌疑不十分なのに起訴猶予とされた人も含まれます。自動照会のため米国側が万が一、勝手に特定人物の指紋を1040万人分と照会しても日本側がチェックできません。
また、持ち主が分からない指紋の照会でも、適合した場合は米国側の求めに応じてその人物の了解なしで個人情報を提供します。
提供される警察庁のデータベース自体にも重大な問題が―。
赤嶺議員追及で
日本共産党の赤嶺政賢議員は4月16日の衆院内閣委員会で、「7割強は無罪確定や嫌疑不十分で不起訴となった者などの指紋だ」と追及しました。
警察庁の栗生俊一刑事局長は、指紋情報のうち740万人分は、無罪判決確定や起訴猶予以外の不起訴処分などだと答弁。多くは罪に問えなかった人の指紋だと認めました。
山下弁護士は、「日本では、無罪が確定しても、不起訴になっても、データベースに指紋が保管され続ける。こうしたものを米国に提供していいのだろうか」と批判します。
国家公安委員会の内部規則「指掌紋取扱規則」は、指紋の削除について「死亡したとき」「保管する必要がなくなったとき」と定めるだけです。栗生刑事局長も、赤嶺氏への答弁で「例が少なくてすみません…」という始末でした。
日本弁護士連合会は、無罪判決確定後も指紋を廃棄せず保有を継続することは違法だと勧告(1997年)していますが、警察庁は応じていません。
一方、米国は州ごとに、指紋を含む犯罪歴の削除について定め、「起訴されず解放された場合は自動的に記録が消える」(メリーランド州の刑事訴訟法)などとしています。
今月17日の衆院本会議では、日本共産党と社民党以外の全政党が法案に賛成し可決されました。法案は参院に送られ、内閣委員会で審議されます。(しんぶん赤旗 2014年4月21日)