エッセイ

水曜随想  「閣議決定」と対馬丸

 

 集団的自衛権行使容認の「閣議決定」をめぐる与党協議がニュースをにぎわしていた6月末、天皇夫妻が沖縄の「対馬丸記念館」を訪問した。

 

 対馬丸は沖縄戦が緊迫してきた1944年8月、九州疎開の途中、米潜水艦の魚雷により沈没させられ、学童780人を含む1482人が犠牲になった。護衛艦2隻がついていたが、護衛艦はそのまま、別の疎開船とともに長崎に向かった。天皇を案内した記念館の館長が終了後の記者会見で「天皇陛下は何度も〝なぜ護衛艦は助けなかったのか〟と聞いていた。非常にまっとうな疑問で、平和を大切に感じていると強く思った」と取材陣に語った。

 

 天皇の訪問については、強い違和感をもっている生存者もいる。私も当然だと思う。ただこの発言は注目すべきだ。天皇の発言を報道で知った私の友人が、「これに比べると安倍首相の『邦人救出の米艦防護』の説明はあまりにも浅薄だ」と、怒りをぶちまけてきた。「戦争の実相に無知な安倍首相」と沖縄戦体験者は口ぐちに語る。

 

 150日間の通常国会はおわったが、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」への怒りは広がりつづけている。元防衛庁長官の山崎拓氏が、「沖縄の基地負担のうえに集団的自衛権。恥ずべき対米従属だ」と語ったのには私も驚いた。集団的自衛権行使容認の先頭にたっていた有識者会議のメンバーの一人である北岡伸一氏は、7月2日の読売紙上で、「最近訪米し、安全保障についてよくわかっている人たちと話してきた。過剰な期待があっても困ると危惧していたが、それはあまりなかった。むしろ、日韓関係を大事にしろとか、韓国とのトゲを抜くためにはもう少し日本は歴史問題に手を打てないか、という声はいろいろあった」ことを紹介している。「閣議決定」を歓迎しつつも、北東アジアの問題では安倍首相の暴走を懸念していることがよく分かる。

 

 「閣議決定」をうけて政府は法案作成に動き出したが、安倍内閣の暴走は、大きな矛盾にぶつかり破たんはさけられない。憲法9条はまだ生きている。私たちのたたかいは、むしろこれからだ。(しんぶん赤旗 2014年7月9日)

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